Story Tellers from the Coming Generation! Interactive fighting novel JOJO-CON
柴犬さんの「ミラション」＆「ナジーブ・マハフーズ」
ＶＳ
蛙男さんの「メッシーナ」＆「レジエ」
| マッチメーカー | ：Ｌ氏ーど |
| バトルステージ | ：白と黒の世界 |
| ストーリーモード | ：Original Joint Match Mode |
双方向対戦小説ジョジョ魂
11．I believe in you.
「……あなたもどうですか？ チェリー」
「いえ……あたしはけっこうです」
神父は差し出したチェリーを自分の口の中に放り込んだ。
ミラションが粛々と告解を述べている間も、その神父はチェリーをクチャクチャともてあそび、あまつさえ彼女の口上を手で遮る始末であった。
「できた。ほら……タネつけたまま……たべた」
得意げにチェリーの食べ残しを見せびらかす。ミラションは呆れた。
（何なんだ、この神父は……あたしの話をカケラも聞いちゃいねーし……
せっかく昨日の夜に必死こいて考えたザンゲの言葉を述べ立ててるってによォ〜）
「なんの話だっけ？ ああ、そうだ……人と動物の違いだった……」
（誰もそんな話はしてねーッ！ いーからとっととあたしを仮釈する事に同意しやがれっつーの！）
とくとくとその「違い」について話す神父。ミラションは完全に上の空だった。
「……わかるかい？」
「はあ……なんとなく」ミラションにとっては何の事やらサッパリだった。
「ま……この話はまたあとでしよう。あなたの仮釈放の件だが……可能性はあると思います。
わたしから、委員会に推薦しておきましょう」
（やたッ！）ミラションは心の中でガッツポーズを決めた。
「本当ですか神父さま！ ありがとうございま」
・
・
・
…………そこからの記憶が途絶えている。
ただ、『絶対に従わなくてはならない声』だけが響くのみだ。
「……ミラション君。きみがこれから秘書となって近づくナジーブ・マハフーズ上院議員は、無能な人間には非常に厳しい男だ。
だからきみの『DISC』には、秘書として必要な業務を遂行できるだけの『技能』を与えておく」
「ナジーブは『スタンド使い』だ……きみの任務は、ナジーブの『スタンドの秘密』を探ること……
あわよくば、きみに与えた『取り立て人』の能力で『持ってきて』ほしい……」
「昔……わたしの『親友』も、彼の能力に興味を抱いたが……結局分からずじまいだったらしい……
彼は何度も死亡説が浮上しているにも関わらず、今まで54年もの議員生活を送ってきた……
彼の『スタンド能力』が、その謎に関係しているはずだ……それを暴け」
「わたしの求めている……『天国に行く方法』を解き明かす手がかりになるかもしれない……
わたしの持論……『この世の魂の総数は一定である』を覆すほどの『秘密』がな……」
12．Think twice.
ミラションとレジエが廊下の先頭に立ち、「賭け」の細かいルールを決めている。
「『賭け』にはルールが必要……それは分かりますね？」
「……ああ」
「そこでルールその１。『ウソ、イカサマは厳禁』……いかがかしら？」
「うむ。当然だな……他には？」
「そうですね……あたし達は立場は違えど、同じ目的を達成しようとしている『仲間』。
抜け駆けや妨害工作などをしてチームの『和』が乱れてしまっては元も子もありません。
そこでルールその２。『あたし達４人は、お互いに危害を加えてはならない』……」
「いいだろう。許可する」
「グッド！」
そんな二人のやり取りを聞き流しつつ、メッシーナは苦悩していた。
何から何まで腑に落ちない。
（一体、どういうつもりなのだ？ こいつらは……）
ナジーブ・マハフーズ上院議員と、その秘書ミラション。
常識で考えるならば、彼らはそれ以上でもそれ以下でもない。単なる一般人のはずだ。
こんな爺さんと（もっともメッシーナとて年齢だけなら立派な『老人』だが）小娘が、どう逆立ちしたところで、この「館」に潜んでいる『吸血鬼』に太刀打ちできるはずがない。
（吸血鬼の『存在』など、最初から信じていないのかもしれないな……
確かに、暗闇の中でレジエが見たという『
空裂眼刺驚』しか、今のところ情報はない。
いかな『波紋使い』とはいえ、万一という事もある。単なる見誤りかもしれない。
おれが見た『石仮面』の事を、レジエに信じてもらえなかったように……）
考えれば考えるほど、自分たちの得てきた情報の不確かさに気づく。
しかし、一時的にせよ石仮面が盗まれたのは事実。その間に「吸血鬼」が誕生してしまったという可能性は否定できない。また、その石仮面を「彼女」が所有している事も。
メッシーナは苛立ちを抑え切れなかった。
（今ひとつ奇妙なのは……このミラションとかいう女。『賭け』なんぞと抜かしてつまらん事を……
ナジーブ上院議員も、いやにあっさりとこの条件を受け容れおった。何故だ？）
レジエが「賭け」に乗った理由は判る。彼ら「一般人」ごときに、自分が遅れを取るはずがないとタカをくくっているのだろう。しかしそれは、あくまで犯人がレジエの言う通り「吸血鬼」だった場合の話だ。
「どうしましたですじゃメッシーナさん。顔色が優れないようじゃが？」ナジーブが話しかけてきた。
「いえ、何でも……」
「まァ〜ウチのミラションは優秀な秘書なんじゃが、無類のバクチ好きでのゥ。
何かにつけてあーやって強引に『賭け』をしようとするんですじゃ。
戸惑われたかもしれませんが、今回もいつものよーなタダのお遊びでしょう。
どーかこのワシに免じて、あまり角を立てないでやってくだしゃれ……ほひひっ！」
「……そ、そうでしたか……ハハ」
ナジーブの笑みに、ついつられて愛想笑いを浮かべるメッシーナ。
（まあいい……ナジーブの言う通り、これは単なる思いつきの『余興』……
『賭け』に勝とうが負けようが、この女から石仮面を回収できさえすればそれでいい。
多少手荒なマネをしてでもな……）
メッシーナのこの考えこそがミラションの……そして彼女のスタンド「取り立て人マリリン・マンソン」の術中にはまる大きな要因となるのだが……無論彼がそんな事を知る由はなかった。
13．You gotta be kidding.
パーティー会場では、ポロック理事が落ち着かない様子でレジエたちの帰りを待っていた。
ソワソワしながら財界人たちの動向を伺う彼に、ゴードンが近づいてきて言った。
「ポロック様。会場の皆様には、もうしばらくこの場に留まっていただくよう申し伝えましたので」
「ああ、すみませんなゴードンさん」
「会場の外も、執事に言ってSPたちに不審人物の捜索をお願いしております」
「ええ！？ あ、そ……そーでしたか……」
「？……何か、まずい事でも？」
不審げなゴードン。ポロックは「ミイラ取りがミイラになりそーだな〜」などと思っていたが、ゴードンらには「吸血鬼」の真実を話していない。彼らの判断は至極当然なものだ。
（……今さら『吸血鬼が犯人だからSP動かすのやめろ』なんて言えないし……
レジエたちが戻ってきたら説得すればいいか……）
「ゴードンさん。フォークランド卿、誰かに恨まれるような心当たりないですかね？」
「さあ……５年前に世界旅行なされてからは、キャロライン様と共にこの館に住まわれて……特に目立った事はされておられぬはずです」
「はあ。５年前から……」
「もともと政治の世界とは縁遠い方でして……今は投資事業なども手を出しておりません。半ば隠居状態でして……よくウィリアム様が政治献金の無心に来られるので、それを煙たがっておられましたが」
話し込んでいると……会場のアナウンスが突然始まった。
『ご来場の皆様には、大変お騒がせしてしまった事を心よりお詫び申し上げます。
フォークランド卿が事故に遭われましたが、幸い命に別状はありません。
そこで……予定どおりパーティーを続行し、皆様にはミスター・コパーヘッドの超幻術を楽しんでいただきたいと思います』
「なッ！？」突拍子もない放送内容に、ポロックは仰天した。
「そんなバカな……そんな指示、わたしは聞いていないッ！」ゴードンも狼狽する。
ミスター・コパーヘッドとは先刻パーティーで美女４人と共に余興のマジックを見せていた美貌の青年の事であるが……財界人たちもさすがに事の異常さに気づき、ざわつき始めた。
ビュオウッ！！
壇上の幕が開かれると同時に、中からすさまじい突風が吹き荒れた。
ミスター・コパーヘッドが、美しい顔に笑みをたたえたままパーティー客を見下ろしている。
いつの間に用意されたのか……彼の背後には、６つの巨大な扇風機が用意されていた。
（しまったッ……レジエの『波紋の紙』が今ので吹き飛ばされてしまったぞ……）
抜け目ないというか、用意周到というか……だがこれでポロックは確信した。
敵は間違いなく……『吸血鬼』だ！
「さて皆様……引き続きわたしの織り成す『超幻術』を……」
コパーヘッドの前口上に対して、すかさず財界人たちからブーイングが上がった。
「オイそんなくだらねー事言ってんじゃねー！」
「フォークランド卿を撃った犯人が中にいるかもしれないのに、呑気に手品なんか見てられるかッ！」
「引っ込めボゲッ！」
ワインのビンや料理が、コパーヘッドに向かって投げつけられる。しかし……
コパーヘッドはそれらすべてを片手で受け止めた。
「俺の『超幻術』は……そんじょそこらの『手品』とはワケが違うんだよ……」
さっきまでの笑顔はどこへやら、コパーヘッドの美しい顔は憤怒に歪んでいた。
「第一、俺はこの仕事には不満だったんだ……どぉーしてテメーらみてーなジジイババアども相手に、俺の超一流のマジックを披露してやらなきゃならん？
こんな芸術をカケラも理解できねーハゲザルどもによォーッ！！」
と、そこで会場の扉が開き、メッシーナたち４人が中に入ってきた。
「な、何だこの騒ぎは……？」
「メッシーナさん！ どこに行ってたんですかッ！」ポロックが安堵の声を上げた。
「気をつけてください！ あのイリュージョニスト、間違いなく……」
「てめーらブタどもで実験してやるぜッ！ タネも仕掛けもねー『胴体切断』ってヤツをなァーッ！！ URRRYYYYYY！！」
絶叫するや否や、コパーヘッドの全身から無数の血管針が飛び出してきた！
14．That's cool !
ドヒャアアアアッ！
狂ったイリュージョニストの放つ血管針が、逃げ惑う財界人たちに襲いかかる！
ところが……
ピシィ！
「MUH！？」
目を剥くコパーヘッド。血管針はすんでのところで止まっている。
血管針の先端は……たった今吹き飛ばしたはずの紙片に、吸いつくように遮られていたのだ。
「バ、バカな……『紙』はさっき扇風機で……」
「愚かな……その程度の風で我が『波紋』、退けられるほど『やわ』ではないッ！」
朗々とした声はコパーヘッドの頭上から響いた。ハッとなって見上げると……
「貴様ッ……いつからそこにッ！ 何者だァッ！？」
レジエだった。壇上の照明にロープを垂らし、片足でコウモリのようにぶら下がっている。
会場内は悲鳴を上げて右往左往する客たちの喧騒で充満しているというのに……レジエのいる空間だけは、怖気が走るほど『静か』だった。
「我が名はレジオン・Ｅ・ボナパルト。どうやら貴様も……心を売り渡した『化け物』のようだな」
「『化け物』だとッ！ 無礼なッ！ 俺は美しい……」
フワリ。
柔らかい音がして、コパーヘッドの視界が真っ暗になる。レジエの（驚いた事に一瞬で！）脱いだスーツが覆い被さったのだ。
バシュウッ！
スーツにはあらかじめ波紋が流してあった。コパーヘッドの姿がスーツの中で形を失う。
それを見届け、軽やかに壇上に着地するレジエ。そのいでたちは、いつもの青いローブ姿であった。
（あらかじめ中に着込んでいたのだろうか？）
「貴様のような不浄なる屍生人（ゾンビ）は……私が断罪するッ！」
15．Good grief !
レジエが壇上でコパーヘッドと戦いを繰り広げている間にも、パーティー客たちは恐慌して我先に会場を抜け出そうとしていた。
「わ……ちょ、ちょっとッ！」
血走った目つきで殺到してくる財界人に、ミラションは翻弄され、なぎ倒されそうになった。
足をすくわれ、バランスを失う。このまま倒れては踏み潰されてしまう。
そう考えた時、はっしと彼女の身体を抱き止めた者がいた。メッシーナだ。
「……世話が焼ける……やれやれ！」
「す……すみません」
「もう収拾がつかん！ レジエはどうやらあのイカレ奇術師と戦う事にしたようだが……ワシらは一旦、この場を離れる事にするぞッ！」
このまま扉に留まっていては危険だ。レジエはもちろん、ナジーブやポロックともはぐれる事になってしまうが、やむを得ないだろう。メッシーナはミラションを抱えるように走り出した。
館の袋小路の通路に入り、メッシーナはやっと一息ついた。
一方、半ば強引についてくる形になったミラションはぼうっとして、目の焦点が合っていない。
「クソッ……これで証明されたな。この館には、間違いなく『石仮面』を使った輩がいる」
メッシーナは舌打ちした。レジエの言っていた事も、俄然真実味が増してくる。
（『敵』はかなり頭が切れるようだ。あのイカレ奇術師の『屍生人』は、おそらく我々を分断するために放たれた『陽動部隊』だろう……しかもあの様子では、『波紋』についての知識もある。
暗闇の中で『 空裂眼刺驚』を放った事といい……レジエは気づいているだろうか？
この館で起こっている一連の事件……『何かの目的』があって、周到に計画されている事を……）
ふとメッシーナは、先ほどから黙して語らないミラションに気づいた。
「おい、どうした……？」
「今の人……身体中からムチみたいなモノが飛び出していたけど……」
「あれが『吸血鬼』だ。全身から『血管』を伸ばし、我々の生き血をすすって命を食らう。
これで信じたろう？ お前が持っている『石仮面』は、ヤツのような怪物を生み出すのだよ」
「……分かりました。認めます。あたしがその『石仮面』とやらをパクった事」
ミラションは観念した、といった様子でかぶりを振った。
「やはりそうか。どこに隠したんだ？」
「それは……言えません。でも……あなたが『賭け』に勝ったら、素直に差し出します。約束しますわ」
「…………」
「心配しないで。仮面のある場所はあたししか知らないし、あたし以外は持ち出す事もできないような所にあるんですから」
ミラションの言葉は、普通の人間にはない「自信」のようなものが感じられた。
「『賭け』に勝てば……それでいいんだな？」
「ええ、もちろん」
「本当に今、持ってはいないのか？」
「くどいですね……何でしたら今ここで、身体検査でも何でもしてくださいな」
言いつつ服を脱ごうとするミラション。メッシーナは慌てて遮った。
「ま、今はそれよりも……この館に潜む吸血鬼どもを一掃する事が先決だな。
おそらく連中はひとりではない」
「どうして……分かるんですか？」
「フォークランド卿が暗闇で撃たれたとレジエが言っていたろう？
あれがもし、計画的に実行されたものだとしたら、フォークランド卿を狙撃する者と、定刻どおりに会場の電源を落とす者と……少なくとも２人の犯人がいなければならないからな」
「なるほどのう……アレはやはり、単なる突発的なテロではないという事じゃな？」
16．Why wait ? Let's get going.
突然２人の背後から声がかかった。ナジーブ上院議員がいつの間にか立っていたのだ。
「ナジーブ先生……ご無事でしたか」ミラションが駆け寄る。
「このワシから何者も奪えぬモノが２つある……煮えたぎるよーな『政治への情熱』と、この雪のよーに真っ白な『歯』じゃよ……そしてワシは死なん。絶対にな……」
誇らしげに歯を見せてニカッと笑う。
「まあ、それはともかく……我ら３人だけでもこうして合流できたのはラッキーだ」
咳払いするメッシーナ。
「これからどうするか。会場はものの見事に混乱してしまったし、外は夜だ。逃げ散った財界人たちは……『吸血鬼』どもの格好の標的だ」
「しかしワシら３人で積極的に動くのも得策ではあるまい？
レジエ君の話では『吸血鬼』は『屍生人』を生むそうじゃあないか」
ナジーブが珍しく消極策を呈した。
「メッシーナさん。あなたは『波紋使い』……じゃが、ここは見ず知らずの財界人を助けに出向いて危険を冒すよりは……ワシらだけでこの館を脱出する手立てを考えた方がいいと思うのじゃがのう。
ワシひとりならともかく、ミラション君もいる事じゃし……」
二次遭難の予防は救命よりも大事。それがナジーブの言い分だった。
「あなたのおっしゃる通りですな。ナジーブ上院議員。ですが……」
メッシーナは一旦言葉を切り、より強い口調で続けた。
「はぐれてしまったレジエは、ワシのかけがえのない弟子だ。こんなところでむざむざ失うわけにはいかない……まずはあなた方お二人を安全な場所まで送り届けた後、ワシはレジエを探しに館の中に戻るつもりです」
「ほお……」ナジーブは少しだけ驚いた。表面上はいがみ合っているように見えたが……なかなかどうして、彼らはれっきとした『師弟』だったのだ。
「そういう事であれば……早いところ行動に移らねばのう……ミラション君」
「はい……ただ、誰かが２人こちらに来ます。一人は……ウィリアム上院議員ですね」
外の様子を探っていたミラションが２人に告げた。幸い、ウィリアムには３人とも面識があった。
「もう一人は……館の執事だな」とメッシーナ。
「どうするかね？」ナジーブが問う。
「様子を見たほうがいい」
「何ともひどい騒ぎです……いったい何が起こったのでしょうなあ……」
執事が落ち着きのない様子でウィリアムに言うと、彼はふと足を止めた。
「？ どうされましたウィリアム様……」
「そこに３人いるな……しかもひとりはナジーブ『大先生』じゃあないか」
「！」名前を呼ばれ、驚いてナジーブは姿を見せてしまった。
メッシーナとミラションも仕方なく物陰から出てくる。
「フン……『何で隠れてるのが分かった？』って言いたそーなツラしてるなァ？」
３人とも感じていた。この男……以前会った時とは、雰囲気がまるで違う。
次の瞬間、ウィリアムは執事の首筋に爪を突き立てた！
「あぎゃッ！ ウ、ウィリアム……ざマァァァァ……」
ズギュウウウウンッ！！
『！？』メッシーナたちは戦慄した。予測していた最悪の事態だ！
「ニオイで分かるんだよォォ……あったけー血のニオイだああああ！！」
ウィリアム・フィリップス上院議員は、熊のような巨体から文字通り牙を剥いた。
17．Who doesn't offend ?
「フン……口ほどにもない」
レジエは脱ぎ捨てたスーツを一瞥し、嘆息する。
パーティー会場は水を打ったように静まりかえっていた。
（メッシーナ師範たちもいない……さすがにあの混乱の中では、客たちと一緒にここを脱出せざるを得なかったという事か……）
「ムッ……誰だ！」
レジエが鋭い声を上げて振り返ると、背後でブロンドの美女がビクリを縮み上がった。
コパーヘッドのマジカル・アシスタントの一人だ。
「あなたは……」
「あのう……ハア、ハア……ミスター・コパーヘッドをご存知ありません？
わたしがトイレに行っている間に、みんな楽屋からいなくなっていたもので……ハア、ハア……」
全速力で探し回っていたのだろう。息を切らしつつ、彼女は不安げに上目遣いでレジエを見やった。
「コパーヘッドなら……ヤツは怪物になってしまった」
レジエは躊躇う事なく真実を告げた。
「か、怪物？ 何を言ってらっしゃるの……」
美女は困惑し、近づいてくるレジエに怯えた眼差しを向けた。
「事実を言ったまでだ……そして、あなたも」
ズン！
レジエはやはり躊躇う事なく……彼女の胸を手刀で貫いた。
「ガフッ…………！？」
「忌々しい屍生人めが……芝居はもう少し上手くやるんだな。
さっきまで走り回っていた人間が、『汗ひとつかいていない』なんて事があると思うのか？」
「ガボッ……GYYYYYYYY！」
ブロンドの美女は本性を表し、鋭い爪を伸ばしてレジエに掴みかかろうとした。
「無駄だ」手刀にさらに強い波紋を込める。
刹那、彼女の肉感的なボディは溶岩のようにグツグツと煮えたぎって四散した！
レジエは無表情で、哀れな屍生人の末路を見届けようとした。しかし……
ヒュンッ！
消滅していく彼女の肉体の背後から、不意に血管が飛び出して……レジエの視界の下を通り過ぎた。
喉に氷を当てたような一瞬の感触の後、耐えがたい熱さと激痛が走った。
「なばッ……！」（バカな……『血管針の先端にナイフ』だとォ……どこからッ）
「さっきはこの俺を……よくも『化け物』呼ばわりしてくれたなァァァァ……」
ガクリと膝をつくレジエの前に、先ほど消滅したはずのコパーヘッドが姿を現した。
18．Putting on more weight will put your life at risk.
「BEEEEEEEE…………」
メキョ……ボゴォ！
襟首を切り裂かれた執事が床に倒れ伏すと同時に、ウィリアム上院議員の巨体が……さらに一回り膨れ上がった！
「ナジィィ〜〜〜〜ブゥゥゥウ！！ ジ〜ブジブジブ！
今までよォーくもこの俺様をコケにしくさってくれやがったなぁぁぁぁ」
暴悪的なウィリアムに対し、メッシーナが一歩前に出る。
「ナジーブさん、ミラション、下がっていろ……
ヤツは……もう我々の知っている上院議員ではないッ」
「見りゃ分かるわよッ」
ミラションは言われるまでもなくナジーブの後ろに隠れた。もっとも、しゃがんでうずくまっても頭と尻が丸見えだったが。
「このウィリアム・フィリップス様が……新たに手に入れた『力』でてめーらをブッ殺すッ！
そーしなきゃあよォー……俺様が政治の世界で『日の目』を見る事は一生あり得ねェェェェェェ」
ウィリアムの唸り声に、ナジーブが呆れ声を発した。
「フン！ アホめが……吸血鬼になったら『日の目』なんぞ見れるハズがなかろう……」
聞こえたらしい。ウィリアムの顔は一瞬にして不気味な湯気が立った。
「BEEEEEEEEAAAARRRRRRRRーッッ！！」
巨魁なる怪物は狂犬のごとく３人に飛びかかってきた！
（ムウッ……こいつ！ 図体のわりに素早いッ！）
メッシーナは迫り来るプレッシャーに負けじと、波紋の呼吸を整えた。
ウィリアムはニヤリと笑った。飛びかかりざま、ヤツの胸部が爆発的に盛り上がる。
スーツが引きちぎれ、中から飛び出してきたのは……
「！？」
攻撃を仕掛けようとしたメッシーナは、危険を察知して慌てて身を捻った。
その判断があと一瞬遅かったら、彼の頭はスイカのように砕け散っていただろう。
ウィリアムの身体から生えてきたもの……それは２人の美女の上半身だった！
『BESYAAAAAAッ！！』
ブロンド美女たちの攻撃をかいくぐり、メッシーナは怪物と距離を取る。
「ゲエッ…………何よアレ」ミラションはウィリアムの醜悪さに思わず嗚咽が込み上げてきた。
「あのコパーヘッドとかいうマジシャンのアシスタントたちじゃな……」ナジーブも息を飲む。
「……思い出したァァ……『あいつ』は……石仮面を持っていなかったなァァァ……」
ウィリアム……だったものは、誰に言うでもなしに呟いた。
「キサマら……持っておらんか？ おとなしく差し出せばよし……さもなくばァ……
脳ミソ引っこ抜いてェ！ 俺様の『かわいーペット』どものエサだァァ〜〜〜〜ッ！！
HAHAHAHA！！」
19．Women are tougher than men. And you know it.
喉の激痛。息が苦しい。「波紋の呼吸」が……できない。
レジエの絶対的な自信は、一瞬の油断で脆くも崩れ去ろうとしていた。
「AHYAHAHAHAHAHAHAHA！ ブァ〜〜〜〜カめがッ！
この俺を世界一美しくてカッコいー『超幻術』の使い手である事を忘れたかァァァ！？ ボゲッ！」
ミスター・コパーヘッドはけたたましい高笑いを上げ、うずくまるレジエを見下ろした。
「俺の得意技は『胴体切断』だけじゃねェ……『瞬間移動』そして『仕込みナイフ』のマジック！
さっきはヤバかったよなァー……あとコンマ数秒、ウチのかわいーアシスタントが『仕掛け』を発動させんのが遅かったら、彼女みてーに俺も『ドジュー』よッ！ ドジュー！ ギャーハハハハハハッ！」
（そ、そんな……このレジエが……このレジエがッ！
こんなくだらんトリックに欺かれて……『屍生人』ごときに殺されるだとッ！）
しかし、レジエの心を支配したのは、怒りでも後悔でもなく……ただ、恐怖だった。
死にたくない。ましてや汚らわしい「屍生人」などに……！
（イヤだ……！ イヤだッ……！）
レジエはガタガタと震え、目には涙までもが溜まってきた。
「てめーら『波紋使い』は、呼吸ができなくなると弱いんだってなァ？
つまァり！ 喉切られたてめーはタダのひ弱な兄ちゃんって事だッ！」
コパーヘッドは右手をレジエの頭上にかざし、爪の先からゆっくりと……ミミズの群れのように血管針を這い回らせる。
「ではグッナイ……げばッ」
ドグシャア！
卑下た笑みを浮かべたコパーヘッドの頭が、突如横凪ぎに吹っ飛んだ。
（メ……メッシーナ……師範？）
思いも寄らぬ救いの手に、レジエは自分の師匠の顔を思い浮かべつつ見上げた。
だが、そこにいたのはメッシーナではなかった。長い黒髪、黒いサングラス、病的なまでに白い素肌、真っ白なドレス……
「キャロライン……？」
キャロライン・フィリップス。病弱であるはずの彼女が、両手に杖を持ち、背後からコパーヘッドを襲ったのである。恐ろしかったのだろう。足が小刻みに揺れていた。
「だ、だ、だ……大丈夫ですか……？」
キャロラインは引きつった顔でレジエの方を向いた。
レジエの思考は一瞬混濁した。
彼女がなぜここに？ なぜ危険を顧みずあの屍生人をブッ飛ばせる？
「くそォごの……メス豚がァァァ……俺の美しい顔をブン殴りやがっでェェェェ〜〜〜〜」
コパーヘッドはまだ死んではいなかった。杖でなぎ払われ、壁に激突した衝撃で首は千切れかけ、耳まで大きく裂けた口からは、ドス黒く濁った血液をしたたらせている。
屍生人の復活はレジエを我に返らせた。キャロラインを守らねば。
（まだ……呼吸はできるッ！）
COOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOッ！！
激痛を堪えつつ、波紋を練るレジエ。
辞書のページを引きちぎり……自ら流した血によって波紋を流すッ！
「波紋奥義……『血羽破蝶閃』（クリムゾン・スワロゥテイル）ッ……！！」
「ワーズ・パピヨン」が『面』による攻撃ならば、この「血羽破蝶閃」は『線』による一点集中！
血によって一筋の「波紋針」となったケナフは、磁石に吸い寄せられるようにコパーヘッドの眉間へと飛び込んでいった。
「URRRRYYYY！ ちょこざいなッ！」
コパーヘッドはめくら滅法に血管針を伸ばし、レジエの攻撃を叩き落そうとするが……「血羽破蝶閃」に触れた血管は瞬時に蒸発してしまう！ 恐るべきはレジエの波紋力！
ボシュウウウウッ……！！
「波紋針」に顔面を貫かれ、屍生人の肉体は血の色に染まって消滅していった。
20．If I quit now, THEY win.
ウィリアム・フィリップスの怪異なる変貌を目の当たりにし、最も焦っていたのはミラションだった。
（いくら……あのメッシーナとかいうヤツが『波紋』の達人とやらだったとしても！
見たカンジ、ナジーブのヤツとどっこいどっこいの『爺様』じゃあねーかッ！
あんな化け物相手に勝てるのかァ〜〜〜〜？ それにもし、直接殴り合いなんて事になったら……
一番ヤバイのはこのあたしだッ…………！）
彼女のスタンド「取り立て人マリリン・マンソン」は「賭けのルールを破った相手」に対しては絶対的なまでの力を発揮するのだが……その反面、物理的に振るえるパワーを一切持たない。
（まさか吸血鬼相手に、「賭け」なんて挑めるワケないし……）
この時、彼女の脳裏に浮かんだ言葉はただひとつ。
トンズラ。
ナジーブとメッシーナがウィリアムに気を取られている隙に、廊下に出て逃げ出す。それしかない。
意を決し、ミラションが踵を返そうとすると……その足を掴まれた。
「ゲッ！」
「あったけェー血ィイイ！ ヴェロヴェロォなあめたァアアイ！」
先刻ウィリアムに殺された執事が屍生人と化し、ミラションを捕らえたのだ！
「ぎゃああああああッ！」ミラションは絶叫した。
「しまったッ……」
舌打ちするメッシーナ。ウィリアムが邪魔で、今の位置からではミラションを救いに行けない。
ふとメッシーナは、ナジーブの姿を探した……いなくなっている。
「血血血血血血ィ！ くれェェェェェエエエ！」
ドゴ！
執事の屍生人がミラションに牙を突き立てようとした時……彼の頭が２つに「分裂」した。
『！？』奇怪な現象を前に、驚愕するメッシーナとウィリアム。
「オゴゴォオオーッ……？」
執事の屍生人はお互い顔を見合わせてキョトンとしている。
よく見ると、頭だけでなく……身体ごと２つに分かれている！ しかもサイズは半分に！
「お主のよーなゴミクズごときに、ワシの『優秀な秘書』を手にかけさせるワケにはいかんでのゥ〜」
いつの間にやら……ミラションを庇うようにナジーブが屍生人の前に立っていた。
同じスタンド使いであるミラションには、見る事ができた。
ナジーブのスタンド……直立歩行したワニのようなビジョンが。
エネルギッシュなオーラが立ちのぼり、彼とそのスタンドの強靭さを物語っていた。
「レレレ〜？ ぬァァんで目の前にオレがいるんだァ〜……？」
「お主が知る必要はない……クズはクズらしく……『塵と化せ』ェェイッ！！」
バゴバゴバゴバゴォォォォッ！！
ナジーブのスタンド「セベク神」のラッシュにより……執事の身体は塵サイズにまで分解された。
メッシーナからすれば、屍生人が一瞬にして消滅したようにしか見えなかった。
「なんだとォォ？ まさか……ナジーブのヤツも『波紋』をッ……？」
ウィリアムの顔が初めて恐怖に歪んだ。
（違う……あれは『波紋』などではない……）
メッシーナはかつての弟子の言葉を思い出していた。
（ジョセフが言っていた……『スタンド』とかいう超能力を身につけたとか……まさかッ……！）
21．Aren't you done yet ?
迷走するパーティー客たちに紛れて、ポロック理事はせっかく合流したメッシーナたちと再びはぐれてしまい……気がつくとトイレに駆け込んでいた。
「おや……奇遇ですね」
一息ついていると、背後から声がかかった。ゴードンだった。
「ゴードンさん、あなたもここに……？」
「客たちの混乱はもう収拾がつかない……無理もないでしょう。壇上にあんな怪物が現れてしまっては」
苦笑するゴードン。ポロックは彼の言葉に奇妙な余裕を感じた。
「ともかく……我々だけではどうにもならない。一旦この館を出るなり、メッシーナ師範たちと合流するなりしなくては……」
「その必要はありません」
突然ぴしゃりと言われ、ポロックは首をかしげた。
「ゴードンさん、それは一体どういう……」
ガシィ！
問いただす暇もなく、ゴードンはポロックの首を右手で掴み、高々と持ち上げた！
「う…………グゲェッ…………！」
「丁度いい……俺の『年齢』をお前に提供してやるぜ……ケケケケッ！」
ギゴギギゴギギギゴッ！
骨の擦れ合う不気味な音とともに、ゴードンの左手が変形していく。
「なッ…………左手がッ…………『右手』にッ！？」
ゴードンのもうひとつの「右手」がポロックに触れる。その途端……！
ビグビグビグビグ……！
ポロックの肉体がみるみるうちに老け込んでいく！ そして……ゴードン自身はまったく逆で、肌に張りとツヤが出て、白髪が黒く染まっていき……若返っている！
「ま、まさかッ…………貴様が『吸血鬼』かッ…………！」
「違いまぁぁぁぁす！ わたしは『屍生人』でぇぇぇぇす！
ちなみに『ゴードン』っつーのもわたしの本名じゃあない！ 本名は……まァ忘れちまったが。
この『能力』はァ……我がスタンド『グローヴ』によるものなのさァ！ ギャハハハハーッ！！」
「い、一体どういう…………」
「これから死んじまうアンタに説明する気も起きないけどねェーッ！ １コだけサービスすると！
間もなくやってくる『ご主人様』のためにッ！ できるだけわたしは若返らなくちゃーならない！
我がスタンド『グローヴ』は……触れた相手と私の『年齢』を自在に交換できる能力を持つッ！
つまりィ、どーゆー事かと言うと……」
ゴシャ！！
ゴードン（仮名）の言葉が途絶えた。頭に強い衝撃を受けてフッ飛んだのだ。
ポロック理事は「年齢」を取りすぎ、足腰はおろか視覚や聴覚も自由が利かず、そのまま床に突っ伏して気絶してしまう。
「ダ……ダ……誰（ダリ）だァ〜ッ！？」
頭蓋骨が陥没しているというのに、ゴードン（仮名）は意外に元気な声を上げて跳ね起きた。
「ビンゴォ！ じゃわい……やはり普段の行いかのゥ……ガァーハッハッハ！」
馬鹿笑いを上げ、トイレに入ってきたのは紛れもなく……ナジーブ・マハフーズその人だった。
22．You haven't got what it takes.
ナジーブのスタンドの恐るべき能力を目の当たりにし、ミラションは腰が抜けて立てなかった。
「先生……今のがあなたの『スタンド』……？」
「ミラション君、チミねェ……不可抗力とはいえ、チミを助けるために我が『セベク神』の能力をお披露目してしまったのじゃ……チミにも『それなりの覚悟』はしてもらうぞい」
「オ〜〜〜〜ッナジーブジブジブジブジィィ〜〜ブ！
てめェ俺様を無視してヒソヒソ秘書と話し込んでんじゃねーッ！」
ウィリアムは気違いじみた唸り声を上げ、巨体を震わせた。
「待て……貴様の相手はこのメッシーナだ」怪物の前に再び立ちはだかるメッシーナ。
「ンだとォ老いぼれが……この俺様を誰だと思ってやァーがる……？」
「ひとつ聞いておきたい……『フォークランド卿』を殺そうとしたのはお前か？」
油断なく構え、懐に隠したシャンパン（パーティー会場のどさくさに紛れて失敬してきたのだ）を確認しつつメッシーナは問う。
（ヤツは思ったより手ごわい……本来ならレジエの居場所を探るために持ってきたものだが……
やむを得ん。今ここで使わざるを得ないだろう……）
いっぽうのウィリアムだが、メッシーナの詰問に答える気はさらさらないようだった。
「俺様はかの偉大なる政治家、故ウィルソン・フィリップスが長男ッ！
そこにいるナジーブのチビさえ退ければ、いずれ大統領にもなれるッ！
俺様はァ……ウィリアム・フィリップス上院議員だぞーーーーッ！！」
ウィリアムの巨体が急激に跳ね上がる！
天井に足をつけた瞬間、彼の胸部から再び美女２人の上半身が飛び出し……そのまま離脱した！
「！」
「ただ飛び出すだけじゃあねーぜッ！ こーやって切り離す事だってできるのさァーッ！」
腰から下のないブロンドたちそれぞれがメッシーナの左右に展開し……壁を利用して跳躍し迫る！
『BESYAAAA！！』
よだれを垂らしつつ、屍生人たちの両腕がメッシーナを捉える！
と思った次の瞬間……メッシーナの姿が消えた。屍生人たちは勢いがつきすぎ、お互いの耳まで裂けた口で熱烈なキスを交わす破目になった。
「何ィ！？」驚愕するウィリアム。
「そんな子供だましが……このメッシーナに通用するとでも思ったのか？」
見上げれば、激突した屍生人たちの頭上にフワリと……メッシーナは浮かんでいた。
彼の足元では……先刻のシャンパンの中身の一部が、波紋によって空中に浮かぶ強固な円盤となっており……その全体重を支えているのである！
「レジエの使う『ケナフ』も強力だが……媒介とする『液体』なくばその威力は半減する。
液体を使いこなすワザは……すべてこのワシが教えたものだッ！」
メッシーナは「円盤」から飛び降り、足のつま先でチョイと屍生人たちを踏み台にして着地する。
『ANGYAAAAH！！』
次の瞬間、彼女らは人ならざる絶叫を上げ、まとめて消失していった。
「…………すごい」ミラションは呆然として呟いていた。
「BEEEEEE……よっくっも俺様の愛らしいペットを！」
ウィリアムはすさまじい吐息を洩らし、憎悪の視線でメッシーナを睨み上げた。
「いいか聞けこの老いぼれッ！ 終身刑にしてやるッ！ 絶対に終身刑にしてやるからなーッ」
バンッ！
ウィリアムは今度は、爬虫類じみた動きで床を疾走した！
常人では捉え切れないほどの異様なスピードで、メッシーナに向かって「何か」を飛ばす。
「クッ！」メッシーナは身をかわしつつ飛んできたモノの正体を見た。先刻の美女たちの「脚」だ。
しかも、ウィリアムの標的はメッシーナではなかった。
撹乱したメッシーナの脇をすり抜け……そのまま凄まじいスピードでミラションへと近づいていく！
「ヒイッ！？」
「女ァ！ 今度は貴様を我がペットとしてやるゥゥゥーッ！！」
ミラションを守ろうとナジーブが動くが、すかさずウィリアムは彼に向かって「脚」を飛ばした。
単なるこけ脅しだったが、それでも動きを止める事はできた。それだけで十分！
「BEEEEEEAAAAAARRRRRRーッッ！！」
ウィリアムはついに立ち上がり、ミラションめがけて襲い掛かった！
「そこまでだ……」メッシーナは例のシャンパンを構えた。「彼女に触れるんじゃあない」
ドバァァァッ！！
メッシーナの波紋によって圧力を抑えられていたシャンパンは、まっすぐウィリアムめがけてその奔流の手を伸ばした！
「チイッ！ だが俺様のスピードでこれしきの攻撃ィ！ かわせぬとでもッ……」
「心配いらん……『隠し玉』はちゃんと用意してあるッ」
シャンパンがウィリアムに到達する瞬間、メッシーナはビンの先端に指で触れた。
すると一直線だったシャンパンの奔流が……ウィリアムの眼前で幾筋にも分かれて展開したッ！！
「何だとォォォォォォォォッッッッ！？」
恐怖の絶叫を上げるウィリアムに、シャンパンは投網のように覆い被さる！
「こいつは昔、弟子が好きだった『トリック』でなァー……
名付けて『アクア・ロープ・マジック』！ といったところかな？」
コオオオオオオオオ！
メッシーナが再び強く「波紋」を練った時……ウィリアムの肉体は寸裂され霧消していった。
「おげぇぇあああ〜〜〜っ……」
気の抜けた冴えない悲鳴が……ウィリアム・フィリップスの断末魔となった。
23．No, lie to me.
レジエは喉の応急手当をすべく、必死で波紋の呼吸を整えていた。
そこはやはり波紋の達人。ものの数秒もしないうちに、出血は止まり、苦痛も波紋で和らげ、呼吸のリズムを取り戻した。
これを続ければ、いずれ喉の傷口も塞がるだろう。
「キャロラインさん、すまない……お陰で助かっ……」
レジエは言いかけ、異常に気づいた。足元に彼女のサングラスが壊れて落ちている。
見やると、キャロラインは全身の数箇所を切り刻まれ、うつ伏せに倒れていた。
「なっ……キャロラインさんッ！」
どうやら先刻のコパーヘッドの、苦し紛れの血管針攻撃による被害を受けたらしい。
レジエは波紋による治療を施すべく、彼女に近寄った。
「見ないで！」
「！？」
突如鋭い声で拒絶され、思わずレジエの動きが止まる。
ウジュルウジュルウジュルウジュル……
レジエは気づいてしまった。彼女の傷口が……不気味に蠢き、急速に再生している事に。
「見ないで……ください……」
キャロラインはうつ伏せのまま、悲しげな声を上げた。
「まさかッ……キャロラインさん……あなたが……『吸血鬼』ッ…………！？」
これまで感じた事のない衝撃が、レジエの全身を駆け抜けていた。
24．Enough is enough.
ナジーブは満面の喜色を浮かべ、ゴードン（仮名）の首根っこを掴んだ。
「……クククク、ついに見つけたぞ！ ワシの最大の目的ッ！！」
「グッ……ナジーブ・マハフーズだなァてめェェ……」
「おおーっと、無駄な抵抗はためにならんぞィゴードンくん……いや本名は違うのじゃったな。
まあ面倒じゃからゴードンと呼ばせてもらうぞ？
お主のスタンドは『左手』だけ！
分裂して『半分』になったとはいえ、全身があるワシのスタンドにかなうハズがないんじゃよ。
もっとも、まさかお主が『屍生人』だったとは思わなんだがのォ〜〜〜〜」
「セベク神」がゴードンの首と左手（今は「右手」だが）を壁に押さえつけ、動きを封じた。
「グギギギ……貴様もッ『石仮面』が目的なのかァ！？」
「勘違いするんじゃあないわい！ あんなカビくさい骨董品になんぞ興味はないッ！
ワシの真の目的……それはお主の持つスタンド能力じゃッ！ 確か『グローヴ』とか言うたかの？」
ナジーブは嫌味なまでに白い歯を剥き出しにして、邪悪な笑みを浮かべた。
「政治の世界というモノはの。それはそれは厳しいモノなのじゃ……
忙しいからといって、身体がもたんなんて泣き言は許されないんじゃよ。
じゃがワシはこの20年間で、エジプト議会の頂点まで登りつめる事ができた……ワシの成功をねたむカスどもに、何度命を狙われたか分からぬ。
常人であれば、とっくの昔に殺されておったか、過労死を迎えておったじゃろう。
それを免れてきたのは、このワシのスタンド『セベク神』の……分裂能力のおかげじゃ……」
「ググ……なるほど……分裂して２人に分かれて……交代で仕事をこなしてたってワケか……
それが『不眠不休のナジーブ』の正体ッ……！」
「その通りじゃよ……じゃが、ワシももう90を迎える……いくら交代で動き回ったところで、昔のような体力の回復はもう望めぬ……このままでは働き回った反動で今度こそ過労死してしまうのがオチじゃ。
そんな時、この館に『石仮面』なるものがあると聞いての。
かくいうワシも『石仮面』については秘密裏に調査を進めておった……
それにまつわる吸血鬼の伝説！ 吸血鬼どもを倒すために戦ってきた『波紋使い』たち！
まあそれなりに興味は惹かれたが……ワシの求めるモノじゃあない。
『太陽の光』を浴びたら消滅するなんぞ、冗談じゃあないわい！
日の当たる道歩けずして、何が政治家か！？ どうして国のために身を捧げられようか！？
しかし、ワシはもう一つの噂を聞いたのじゃ……そう。お主の存在じゃよ」
ナジーブの笑みが大きくなった。
「大昔に騒がれた連続殺人鬼『両右手の男』……両腕とも右手という目立つ特徴にも関わらず、その足取りはいっこうに掴めなかった。その理由は……犯行の目撃者や死体の発見者たちの証言が、ことごとく食い違っておったからに他ならない。
犯人は20歳前後の青年という者もいれば、50代の中年という者もいた。
死体がひどく老け込んでおり、家族の者が見ても誰だか判別がつかないような事もあったという……
つまり貴様には『年齢を操作する』スタンド能力があったのではないかという推測されるワケじゃ。
それでも、20年ほど前に貴様は殺され……しかも５年前にその『墓が暴かれる』という事件があった。
フォークランド卿が石仮面を手に入れた時期と一致するのゥ？」
「ググ……」ゴードンの顔に初めて焦りが見え始めた。
「そこでこのナジーブは考える……貴様の墓が暴かれた理由とはッ！
貴様を『石仮面』の魔力で屍生人として復活させ！ 貴様のスタンド能力でもって吸血鬼と化した自分を世間から怪しまれぬよう『カモフラージュ』するためだったのではないか？ とな……
聞くところによれば、吸血鬼化した人間は若返り、年を取らなくなるという。
何十年もそのままでは、周囲の人間は自分の正体について訝しむじゃろう……それを防ぐため、貴様を蘇らせた……違うかね？」
「そこまで……知ってやがったとは……なんてジジイだッ」
「もっとも！ そのスタンド使いが誰かまでは実際に潜入するまで判断がつかなかったがねェ〜〜。
ワシはてっきりボンクラのウィリアムかと思って、あらかじめ館に入りこーして尾行し続けておったのじゃが……まあとにかく結果オーライ！
『取引』をしようじゃあないかゴードンくん。お主のスタンド能力で……ワシを若返らせろ。
そうすれば命も助けるし、ワシの下で秘書として優遇してやってもいいぞ？
ワシはまだまだ死ぬワケにはいかん。ワシの使命は大きいのじゃ！
このエジプトを変革しッ！ 世界におけるリーダーシップを獲得できる大国と成すためにッ！」
「世迷言は……それくらいにしておけ」
突如、別の声がナジーブの背後から響いた。次の瞬間……
ドンッ！ ドンッ！！
高圧で発射されたエネルギーが、偉大なる国粋主義者の心臓と胴を貫いていた！
25．Forget it. Nothing personal.
ウィリアム・フィリップスの消滅を見届けた後、「脚」の始末も終え……メッシーナは考えていた。
（最初はヤツが『フォークランド卿を襲った犯人』かと思ったが……どうやら違うようだ。
ヤツは手ごわかったとはいえ、所詮ただの『屍生人』……その証拠に、ヤツは『
空裂眼刺驚』を一度たりとも撃っては来なかったし、肉体の再生能力すらなかったしな……）
一方、ナジーブはミラションと何やらヒソヒソと話をしている。
そのやりとりが気に入らなかったメッシーナは、「スタンド」について詰問すべく詰め寄った。
「ナジーブ上院議員、あんたは……！」
言いかけ、メッシーナは……いつの間にかミラションが「石仮面」を手に持っている事に気づいた。
「それは……今度こそ間違いないッ！ やはりあんたが持っていたのかッ！」
メッシーナは矢も盾もたまらずに、ミラションから仮面を奪い取っていた。
「な、何をするんですかッ」ミラションが抗議の声を上げる。
「やかましい！ 『手元にない』などとウソをつきおって……この仮面はワシが預かっておくッ」
「『賭け』をしたでしょう？ 勝手にわたしのモノに手を出すのは……」
「『ルール違反』だとでも言いたいのか？ くだらん事をいつまでもグダグダと……
フォークランド卿を撃った犯人なら、さっきのウィリアムだッ！
ヤツはワシの波紋で始末したッ！ つまらん茶番は終わりだ！ これで満足かッ！」
メッシーナが声を荒げると……急にミラションは無表情になった。
「あたしは…………『何もしていない』…………」
「？」
「あたしには『何か』証明できないが……メッシーナ師範。あなたは今、自分が『ウソをついた』事を自分で知っている……」
「？ さっきから何をわけの分からん事を……」
「あなたは今『ルール』を破った……なぜなら今『取り立て人』が現れたから……」
ミラションの横から……奇怪な人影が忽然と姿を現すのを、メッシーナは見た。
全身が羽毛に覆われ、両手は２本のフック状になっている。頭部には料金メーターのようなものが備えつけられており……ロボットとも、人間とも思えぬ奇妙な容貌だった。
（まさかッ……信じられん。この女も『スタンド使い』だと言うのかッ……！？）
ミラションのスタンド……『取り立て人マリリン・マンソン』の出現だった。
Ｔｏ Ｂｅ Ｃｏｎｔｉｎｕｅｄ ！！
事態は収拾するどころか、より混沌とした泥沼状態にッ！
メッシーナとレジエは、眼前に突きつけられた事実を直視し、乗り越える事ができるのか？
ミラションの本意は？ ナジーブの野望は達成されるのか？
何よりこの館にまつわる謎……邪悪なＬ氏ーどはキチッと決着つける気があるのかッ！？（笑）
| 廊下 | ||
| ミラション | （♀） | ナジーブの秘書。スタンド：取り立て人マリリン・マンソン |
| ナジーブ・マハフーズ | （♂） | 上院議員。与党の最長老。スタンド：セベク神 |
| メッシーナ | （♂） | 波紋法の師範。レジエの師匠 |
| ウィリアム・フィリップス | （♂） | 上院議員。ナジーブのライバル。屍生人 |
| パーティー会場 | ||
| レジエ | （♂） | 波紋使い。奥義「波紋黒死蝶」を使う |
| キャロライン・フィリップス | （♀） | ウィリアムの娘。先天性の奇病を持つ。吸血鬼 |
| ミスター・コパーヘッド | （♂） | 美貌の天才イリュージョニスト。屍生人 |
| トイレ | ||
| ポロック | （♂） | SPW財団の理事 |
| ゴードン | （♂） | フォークランド卿の主治医。屍生人。スタンド：グローヴ |
| ナジーブ・マハフーズ | （♂） | 上院議員。与党の最長老。スタンド：セベク神 |
この対戦小説は、柴犬さんと蛙男さんの対戦ソースを元に、Ｌ氏ーどが構成しています。
解釈ミスもあるかもしれませんがご容赦ください。
柴犬さんと蛙男さん及び、ミラションとメッシーナ、そしてナジーブとレジエにもありがとう！