Story Tellers from the Coming Generation! Interactive fighting novel JOJO-CON
双方向対戦小説ジョジョ魂
１．You're making me lose my patience.
シックで落ち着きのあるラウンジでは、険悪なムードが漂っていた。
「……ハッキリ言ってやろう！ アンタはこのエジプト議会における『老害』そのものだッ！」
ダミ声でまくし立てているのは、熊のようにいかつい体格の中年男で、はちきれんばかりのスーツにどうにか腕を通しているといった風体だった。お世辞にも似合っているとはいえない。
「大先生もいい年だ……聞いてるぜ、若く見えるがもーすぐ90なんだろ？
いーかげん『引退』してくれねーか？ こちらとしても、悪いようにはせんつもりだよ？」
今度は気味が悪いほどの猫撫で声で、椅子にふんぞり返っている老人の顔色を伺う。
熊男と面と向かっているのは、非常に小柄な老人だった。背丈からすれば、男の腰ほどもない。
しかしその面相には……熊男の髭面よりも得体の知れない迫力があった。ひたすら大きな受け口、大きく張ったエラ、ギョロリとした両眼は左右に広がっており、ワニのような爬虫類を連想させる。
やがてその老人は……熊男には興味なさげに大きな口を全開にして生アクビをした。
それが合図なのだろう。傍らにいた秘書の女性が、慣れた手つきで歯ブラシを取り出し、「大先生」の大口の中に手を突っ込み、彼の異様に白い歯を一本一本丁寧に磨きはじめた。
「アフゥ〜〜〜〜〜〜ィィィ〜〜〜〜」
老人の口から至福の吐息が洩れる。
完全に無視された。そう感じた熊男は激昂した。
「てめェェェナジーブ・マハフーズッ！ 人が下手に出てりゃあイイ気になりやがってッ！」
「マハフーズ先生は現在お休み中です」秘書が淡々と告げる。「申し訳ございませんウィリアム・フィリップス上院議員。今回のお話はまた、次の機会という事で……」
憤懣やる方なし、といった様子でウィリアム議員と呼ばれた熊男は乱暴に席を立った。
「このままでは済まさんぞ。憶えてやがれッ！」
鼻息荒く、三流悪役のようなセリフを吐いてずかずかと退室していく。
そんなウィリアム議員の後ろ姿を横目にやりつつ、ナジーブは心の中で嘲っていた。
（ハン！ 親の七光りで議員バッヂにしがみついているだけのボンクラのクセに、強がりだけは一丁前じゃの。所詮ヤツは青二才の２世議員……幾度もの修羅場をくぐり抜けてきたワシからすれば、ただのヒヨッコにすぎぬわッ！ ガァーハッハッハッ！！）
ウィリアム・フィリップスもすでに50代の半ばを過ぎた立派な老人なのだが……齢90を数えるナジーブにかかれば、どんなヤツでもヒヨッコなのだろう。
いつもの歯磨きが終わると、ナジーブは秘書に声をかけた。
「今日の歯磨きは……スバラシク気持ち良かったよ」
「……恐縮です」
「ところで、チミィ……どうやら『賭け』は、ワシの勝ちのようじゃな？」
「…………はい」
「賭け」と聞いて、秘書の表情が微かに歪んだが、やおら懐から100ポンド紙幣を取り出してナジーブに手渡した。
「あのフィリップスのドラ息子が、ワシと話をして怒りを抑えられるハズがなかろーが？
最初から勝ち目のない『賭け』じゃったのじゃよ。勝てぬ戦いを避けるのは、動物どもでも本能でやってのけるぞ……わかるかね、ミラション君」
こざっぱりとしたスーツに身を包んだセミロングの黒髪の女性は、無表情だった。
「ご心配は無用ですわ、先生。わたしと先生のこの『賭け』は……ただのお遊び。
退屈しのぎの余興なのですから。先生もお認めになったはずですよね？」
「あァ、確かに……100ポンドぽっちなら可愛いモンじゃがな。勝手にワシの財産をギャンブルに使い込まんでくれよ。まったく、これさえなければチミは申し分のない秘書なんじゃがなあ……ほひひっ！」
たしなめるナジーブだったが、即座に相好を崩した。
これから歯磨き以上に楽しみな耳掻きが待っているのだ。
ナジーブ・ホスニ・マハフーズ上院議員。
現在のエジプト議会における与党の最長老とも呼べる存在で、20年前ウィルソン・フィリップス上院議員の事故死から、急速に勢力を伸ばしてきた。ウィルソンの後継者たる息子のウィリアム上院議員は、政治的手腕、カリスマ性どれを取っても先代やナジーブに及ぶところではなく、与党内での立場をそっくりそのままナジーブに掠め取られた形となった。
そんな状態が続いて早20年。ウィリアム上院議員の忍耐も限界に達していた。
（いまいましいワニジジイめがッ！ 俺のオヤジが死んだのも実はヤツの仕業なんじゃあないのか？
ヤツさえ、あの『不眠不休のナジーブ』さえいなければ……あの時の次期大統領の座は俺のものだったのだッ！……クソカスがァァァァ〜〜）
「不眠不休」のナジーブ。精力的に仕事をこなし続ける事から付けられた呼称だった。
彼は大統領にこそ就任しなかったものの、議会における発言力は絶大にして無比。現職の大統領もナジーブの意向を代弁するだけの操り人形に過ぎない。
（もうヤツは、いつ死んでしまってもおかしくはない高齢のハズだ……だがどうだ？ ヤツが老いぼれてくたばるところなど、想像もつかない。20年前のエネルギッシュな雰囲気が微塵も衰えていない……
『老いてますます盛ん』とは言うが、いくら何でも出来すぎじゃあないか？）
ウィリアムは虚勢やハッタリをかますのは得意だったが、ナジーブとは一度も正面切って対決した事はない。その最大の理由が、彼の存在の不気味さだった。
90近い年齢にも関わらず、取り立てて大きな病気もなく、足腰もしっかりしており、動きもかくしゃくとしている。ナジーブより若い世代で身体のあちこちにガタの来た人間を、ウィリアムは何人も知っていた。
彼の疲れを知らない活動ぶりは、人間のものとは到底思えなかった。
（だがこのままでは……ヤツにいいようにされてしまうだけだ。どうすればいい……？）
こうしてウィリアム・フィリップス上院議員の苦悩は、今日も続くのである。
２．This is how everyone proves themselves.
イタリアはヴェネチア、エアサプレーナ島。ここは波紋修行者の修練場である。
1939年、２千年の永い眠りについていた「柱の男」たちが蘇った。
ジョセフ、シーザーら若き波紋戦士たちは「柱の男」たちと熾烈な戦いを繰り広げ、多くの犠牲……ロギンス師範代、そしてシーザーの死……を払いながらも、最終的には勝利を収めた。
エアサプレーナ島の波紋法師範であったリサリサは、戦いの一線から退き、ジョセフと共にアメリカに移住した。
死んだロギンスと同じく、リサリサの召し使い兼波紋法の師範代であったメッシーナは、彼女から暇を頂戴し島に残った。自らの波紋修行の継続と、後進の指導にあたるためである。
「柱の男」の脅威が去ったとはいえ、世界にはまだ石仮面がいくつも眠っており、ときおりＳＰＷ財団の調査報告をうけては、吸血鬼狩りも行われていた。そのために選んだ道だった。
そして時は流れる。
島では、リサリサに代わり師範となったメッシーナのシゴキにもめげず、数多くの波紋使いが育っていった。またメッシーナ自身も、自らの修行を日々怠らなかった。
弟子たちからは齢百近いと噂されているにも関わらず、その肉体的な年齢は60〜70代程度の衰えしか見せていない。波紋呼吸法による肉体鍛錬の賜物だった。
とはいえメッシーナ師範も、そろそろ自分の後継者を選ばねばらない時期だと感じていた。
いかな波紋の呼吸法といえども、時の流れる糸車を少しだけ遅らせているに過ぎない。吸血鬼や柱の男たちのように、未来永劫己の時を止める事はできないのだ。それは受け容れるべき「現実」。
それを否定すれば、あのストレイツォのように「狂気」に囚われてしまう。
だからメッシーナは考える。波紋法の次代を担うに相応しき若き才能を育成しなければ。
かつてのジョセフやシーザーのように。
そんな彼の思いが実を結んだか、近年波紋修行者たちの中で特に頭角を表わしてきた一人の若者がいた。ヴェネチアの波紋修行者たちの間でも、近い将来波紋法の首領は彼となるに違いないともっぱらの評判だった。
彼の名は、レジオン・Ｅ・ボナパルト。通称、レジエである。
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柴犬さんの「ミラション」＆「ナジーブ・マハフーズ」
ＶＳ
蛙男さんの「メッシーナ」＆「レジエ」
| マッチメーカー | ：Ｌ氏ーど |
| バトルステージ | ：白と黒の世界 |
| ストーリーモード | ：Original Joint Match Mode |
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３．It's about time you got your mind made up.
「あんた達、旅の者かい？ ホテルは取っているのかね？」
「ええ。すでに予約を入れています」
「そうかね……ここんとこ、無断で予約をすっぽかす客が多いって、ホテルのオーナーがこぼしてたよ。ワシは旅行者ばかりを狙った誘拐団の仕業だと思うね。ヤツらのバラまくカネを手っ取り早く落としてもらおうってハラなんだろうさ」
「…………」
「あんたもせいぜい気をつけなよ」
「おい、何をしているレジエ。ポロック氏がお待ちかねだぞ」
「……はい。メッシーナ師範」
エジプト、カイロの夜。常闇に包まれた黒い世界の中でも、一際白く浮かび上がっている建物があった。ここは街有数の名士にしてウィリアム・フィリップス上院議員の叔父であるフォークランド卿の館。
メッシーナとレジエは、SPW財団の使者として訪れたポロック理事と合流し、この豪邸を目指した。
件の「石仮面」を所有している富豪というのが、他ならぬこの館の主、フォークランド卿なのである。
メッシーナたち３人は、上辺だけは丁重にもてなされたが、通された客間で散々待たされた。
小一時間ほどもすると、ようやく奥から車椅子に乗った老人と、それを押している熊のようにがっしりとした大男、そして老人の主治医らしき痩せぎすの男が入ってきた。丁度３対３で向かい合う形となる。
「……お待たせして、申し訳ない。わしが、フォークランドだ」
車椅子の老人がしわがれた細い声で口を開いた。手足も目に見えて節くれだっており、ミイラが糸か何かで操られているようなぎこちない物腰だった。
「こちらはわしの甥のウィリアム。エジプト議会で上院議員をやっておる」
「……フン」紹介され、ウィリアムは面白くもなさそうにそっぽを向いた。
「話は聞いておる……『石仮面』を所望しておるそうじゃな」
フォークランド卿の言葉を受け、ポロック理事が切り出した。
「さすがはフォークランド卿。分かっておられるのであれば話は早い。
石仮面を我がSPW財団に譲っていただければ、こちらとしてもそれに見合う謝礼をお支払いしますぞ」
「何が謝礼だ」ウィリアム上院議員が露骨に難色を示した。「第一、俺はこの件に関しては何ひとつ聞かされておらんぞ。叔父上、何故俺に相談もなしに勝手に石仮面の交渉を進めたりしたんだ！？」
「わしも最初は譲るつもりなどなかった」とフォークランド。「５年前、あの仮面を手に入れた時は、単なる骨董品だとばかり思っていたからな……だが、それは誤りであった。彼らが教えてくれたのだよ」
「その通り」メッシーナが石仮面について説明すべく口を開いた。「あなた方は『石仮面』がどれほど危険な代物であるかご存知ない。あれは人の生き血をすする化け物を生み出す魔性の仮面なのだ」
メッシーナは語った。石仮面の恐ろしさを。生み出される吸血鬼の驚異的な能力を。そのために自分たち「波紋使い」が派遣されてきた事も……
「……フ、フン。そんなオカルトじみた話……にわかに信じられるか」
つっぱねるウィリアムだったが、その表情はやや蒼ざめている。
「ひとつだけはっきりさせておこう……我々は『取引』を持ちかけに来たのではない。
何が何でも、あなた方から石仮面を回収するつもりで来た。従わない場合は、腕ずくでも持ち帰らせていただく」
「な、なんだとぉー！？ この若造がッ！」
レジエの強硬な姿勢に、ウィリアムも自尊心を傷つけられいきり立った。
「レジエ！」
メッシーナが鋭い声を上げるが、レジエ自身もウィリアムの傲慢な態度にいささか気分を害していたらしい。無表情のまま一歩も退く気配を見せなかった。
二人が一触即発の状態となった時……
「……お父様？ 何の騒ぎですの？」
騒ぎを聞きつけたのか、若い女性が客間に入ってきていた。
真っ白な肌と衣服。それとは対照的な黒髪とサングラスが印象的な、美しいが奇妙な少女だった。
メッシーナたちに気づいて深々と頭を垂れる。
「ここで何をしているんだキャロル。おとなしくしていなさい」
キャロルとやらの姿を見た途端、ウィリアム議員の態度は180度変わった。腫れ物に触るかのように彼女の肩に優しく手をかけ、メッシーナたちなど眼中にないかのように一緒に部屋を出ていってしまう。
「失礼ですが、今の方は……」思わず疑問が口から洩れるポロック。
「キャロライン・フィリップス。ウィリーの娘だ。ヤツも普段は傲慢じゃが、実の娘だけには甘い」
フォークランド卿は口元をピクピクとひきつらせた。
どうやら笑顔のつもりらしいが、今ので室温が確実に２度は下がったような気がした。
「まァ無理もあるまい……キャロルは生まれついての奇病を患っておってな。
日の光を浴びると強い炎症反応が起こり、大火傷を負ってしまうのじゃ。
まるであんた方の言う……『吸血鬼』のようにな」
俗に言う日光皮膚炎、あるいは光線過敏症皮膚炎と呼ばれるものであった。
彼の言葉から、ウィリアムが不機嫌だった理由を悟ったメッシーナは深々と頭を下げた。
「申し訳ない。あなた方のお身内に彼女のような方がいるとは露知らず……数々の非礼、レジエに代わってこのメッシーナがお詫び申し上げる」
「気にせずとも結構」フォークランド卿の口調は穏やかだった。
「小うるさい熊男もいなくなった事だし、本当の事を言おう。あなた方が我が家を訪れた時から、すでに心は決めておった。石仮面……あなた方に譲りましょう」
「ほ、本当ですかフォークランド卿！」ポロック理事の顔がパッと明るくなる。
「あなた方の言う事が本当なら、そんな危険な仮面はこちらから願い下げだ。喜んで差し上げましょう。
それに今日は丁度、我が邸宅にて『仮面舞踏会』を開く予定でしてな。
小規模ではあるが、財界から30人ばかり客を招いております。これも何かの縁。是非あなた方にも参加していただき、おもてなしさせて下され……ゴードン」
フォークランド卿は傍らの主治医に命じ、小間使いに石仮面を持って来させるよう頼んだ。
待つ事１分。ＰＨＳから連絡を受けた主治医の顔色が変わった。
「どうしたのだ」
「それがフォークランド様……『石仮面』が何者かに持ち出された模様でして……！」
オドオドした主治医ゴードンの言葉に、メッシーナたちもやおら色めき立った。
４．Let's have a ball, alone.
仮面舞踏会の会場であるフォークランド卿の館の大広間。
すでに準備万端整っており、出席者たちも顔を揃えている。
彼らエリート財界人の中には……あのナジーブ上院議員も姿を見せていた。秘書のミラションも一緒だ。仮面のため、周囲が２人の正体に気づいた様子はなかったが。
「何故なんです？」ミラションは何気なしを装いつつ、ナジーブに尋ねた。
「先生とウィリアム・フィリップス議員は犬猿の仲。このパーティーの主催者はウィリアムの叔父にして、今は亡きウィルソンの弟でもあるフォークランド卿。わざわざこんな、敵陣真っ只中も同然のパーティーなどに出席しなくとも……」
「ほひひッ……ミラション君。チミは優秀な秘書じゃが、まだまだワシの『政治哲学』というモノが分かっておらんようじゃな？」
「はあ……『先のことより、今のこと』……でしたっけか」
「そう！ その通りッ！ 実に単純なスローガンじゃが、その意味するところは深いのじゃよ」
ナジーブは得意げに鼻を鳴らした。
「政治とはギブ・アンド・テイク！ 見返りあってこそ成り立つ世界じゃ……じゃが、その取引を持ちかけるためには、最低限の『信用』が必要……ならばその信用を形成するために必要なのは何か？
そう『人の和』じゃッ！ こういう社交の場をこそ、大事にせにゃー政治家はつとまらん！
日本の茶道には『一期一会』という言葉がある……人との出会いを一生に一度しかないものと心得、誠心誠意を尽くすべしという意味じゃ……まさにその精神で『今この時』に力を注ぐ。それが『人の和』を形づくる秘訣よォー……わかるかね？ ミラション君」
「はあ……なんとなく」
一気にまくし立てられ、聞き流していたミラションは曖昧に生返事をした。
「人の和は身近なモノから親密にしていかねばならん。特に、こうして常に仕事で顔をつき合わせておる……ワシと、チミのような関係はな」
「……………………は？」
突如、ナジーブの言葉に変調が起こった。ミラションはその違和感につい、聞き返してしまった。
上院議員はミラションに耳を貸すよう仕向け、不気味な声で囁いた。
「ミラション君……お主は何の目的でこのワシに近づいておる？」
「！……おっしゃる意味が……」
核心を突かれた質問をされ、ミラションは一瞬硬直したが、動揺は顔に出さない。
「お主を秘書として雇って早２週間が経つ……お主がワシの命を狙っておるワケではないのは、よぉーく分かっておるつもりじゃ。元よりそのつもりであれば、お主なんぞ返り討ちにするところじゃ」
「…………」
「じゃがお主は……ワシの持つ『何か』を奪おうとしておる事は分かる。誰の命令でやっておるのかは知らぬが……どうじゃ？ 『正式に』ワシの下で働く気はないか？ これまで以上の待遇を約束するぞ」
「いきなりそのような事をおっしゃられても……」
しどろもどろになり、あくまでも理解不能のポーズを示すミラション。
彼女は確かに命令されている。あの「ホワイトスネイク」に。ヤツの「命令」は絶対だ。
裏切るわけにはいかない。
「フン……あくまでしらばっくれる気かね。まあいい。
今はパーティーを楽しむとしよう。今夜中に自分の考えをまとめるがよかろ。
ワシの下で働くか、命令されたヤツのところへ舞い戻るか……すべてはチミ次第じゃ。
同じ『能力』を持つ者どうし、仲良くやりたいところじゃがな」
ミラションは絶句した。一度も見せていないにも関わらず、自分がスタンド使いである事まで見抜かれてしまっている。不気味！ すべてを見透かされているような不快感！ 不気味！ 不気味！
どっと湧いた疲労感が、鉛のように全身にのしかかってくる。
ミラションは著しく気分を害し、足を引きずるようにしてトイレへと向かった。
５．Seeing is believing.
ウィリアム・フィリップス上院議員は、精神的に追い詰められていた。
大柄な体格から、周囲からは強面に見られがちであったが、その実肝っ玉の小さな男で、大声でがなり立てるのも気弱な本性をカモフラージュするためであり、父の跡を継いで上院議員に納まったのも、周囲からの痛いまでの期待の視線に応えただけの事だった。
愛娘のキャロルを自室へ送り届けた後、彼は頼りない足取りに廊下を歩いていた。
どこに行こうとしているのかすら思い出せない。ここ数年、休む間もなく激務が続いた。それだけならまだしも、文字通り身を粉にして動き回っているにも関わらず、確たる成果は現れない。
疲労と脱力感で彼の思考能力は鈍りきっていた。
（あんなモンが……何だってんだ……クソッ）
ウィリアムの脳裏に浮かんだのは、先ほど話に上がっていた石仮面だった。
５年前に好事家のフォークランド卿が、怪しげな外国の骨董屋から捨て値で買い漁ってきたガラクタ（ウィリアムにはそうとしか思えなかった）のひとつだ。あの「波紋使い」どもが言うような、危険な代物とは到底思えなかった。
（いや……待てよ。確か３年くらい前に……）
ウィリアムは政治活動で多忙であるため、一年に一度ここを訪れる事ができればいい方だった。今日ここにいるのも、例の「仮面舞踏会」に『財界人として』出席するためである。
それはともかく、３年ほど前にこの館を訪れた時、ちょうど召使いたちが倉庫の掃除をしていた時だった。召使いの一人が何かに腕を引っ掛けて大怪我をした。血が吹き出して飛び散った。
ウィリアムしか気づく者はいなかったが、その時確かに……例の仮面に血が降りかかり、仮面の淵から無数の針が飛び出していくのを目撃したのだ。
（思い出したぞ、あの仮面のカラクリ……あいつらの説明と一致する……まさか、本当に……？）
ウィリアムは自分の足が、自然と速まっている事に気づいていた。
もしも、もしも……連中の言っている事が本当ならば。
「使えるぞ、あの『石仮面』は……フハハハッ」思わず呟き、ほくそ笑む。
そんなウィリアムの様子を……物陰から覗いていた人影がいた。
興奮と焦燥に駆られた彼が、それに気づく道理はなかったけれど。
６．Why not ?
石仮面紛失の報を受け、フォークランド卿は鎮痛な面持ちで謝罪した。
「すまない。わしの管理が行き届かなかったばかりに……」
「いえ、それよりも」レジエがフォークランドの言葉を遮り、そして尋ねた。
「石仮面……今日の夕方までは、確かにあったのですね？」
「ああ。ゴードンと共にこの目で確認した……間違いない」
「この館……今どれだけの人数がおられるので？」
その問いには主治医のゴードンが答える。
「我々５人と、ウィリアム様とキャロライン様。執事が２人。召使いが８人。パーティー会場に集まっている財界人30名。余興として呼んだイリュージョニスト５人と司会者１人。ＳＰが11名おりますから……合計64人がこの館の中にいる事になります」
「外部の者が侵入する可能性は？」
「そんなものはない」きっぱりと否定するフォークランド。
「ＳＰたちはわしの信頼する優秀な連中ばかりじゃし、この館にはセキュリティ・システムもある。アリ一匹入る事はできんじゃろう」
「そうですか……」
「つまりレジエ。君はこう言いたいのかね」ポロックが口を挟む。
「石仮面が盗まれたのはついさっきで、犯人はこの館の誰かだと……？」
「フォークランド卿の証言が確かであれば、そういう事になります」レジエは淡々と肯定した。
召使いの一人がフォークランド卿に「そろそろ主賓ご挨拶のお時間です」と告げに来た。メッシーナはパーティーを即刻中止すべきだと提案したが、
「この会合はわしやウィリアムにとっても重要な意味合いを持つ。『吸血鬼が潜んでいるかもしれない』から今日のパーティーは取り止めなどと発表してみい。我々は大恥をかいた挙句、政治的信用は地に落ちるじゃろう」
と頑として首を縦に振らなかった。
仕方なく、ポロックとレジエはパーティーに参加するフリをしつつ会場での吸血鬼や屍生人（ゾンビ）の出現を警戒、メッシーナは会場以外の場所の捜索と役割分担をする事になった。
かくしてパーティー会場。そこは一面大理石で覆われたかのような白い空間だった。
（この館に来た時も、外見は異様なまでに白かったな……まるで夜空の『黒』に抗っているかのようだった……フォークランド卿の単なる趣味なんだろうか？ この嫌味なまでの『白さ』は……）
レジエはそんな事を考えつつも、フォークランド卿の召使いに用意してもらったタキシードがどうにも窮屈で（彼が着てきたローブでは入場が認められないというので、仕方なく着替えたのである）モゾモゾと落ち着かない様子だった。
ポロックはSPW財団の理事という事もあり、周囲の財界人と比べても何ら遜色はなく明るく談笑していたが、レジエは会場の隅から周囲を観察し続けるのみで、沈黙を守っていた。彼の任務はあくまでも会場内にいる「吸血鬼」の発見……そして、撃破であった。
（『仮面舞踏会』、か……誰がこんな趣味の悪い催しを最初に考えついたやら）
財界人たちは皆、金や銀に輝く派手な仮面を被り、楽しげに語り合っている。レジエにはどうしてもその感性が理解できなかった。直接会ってまで、素顔を隠す必然性というものが感じられないのだ。女性が化粧をするのは分かる。自分を美しく見せ、他人を魅惑するために行うものだからだ。しかし、彼らの「仮面」からは……感情を塗りつぶした不気味さしか伝わってこない。
（もっとも、仮面など……皆が無意識に被っているものかもしれないがな）
レジエがそう自嘲するのも、自分の師匠であるメッシーナが原因だった。
ヴェネチアの波紋修行者たちは皆、自分の才能と実力を賞賛しているというのに、彼だけは違った。
今回の派遣でもレジエは、メッシーナが同行すると言い出した理由を尋ねたが、彼は、
「お前には……『危うさ』がある。まだ一人前とは言えん」
と告げただけだった。
レジエは心外だった。自分がこれまでわき目もふらず波紋修行に勤しんだのも、自分の才能を見出してくれたメッシーナ師範の恩に報いるため。師範に認めてもらいたいがためである。それなのに……
（どういうつもりなのだ、メッシーナ師範は……私の才能を妬んでいるのか？
私に『危うさ』だと？ 私の『波紋』は一族始まって以来の強さ……欠点などない、はずだ。
なぜだ？ いったい何が不満なのだ？ いったいなぜ……！）
その驕慢こそが、メッシーナの告げた「危うさ」の正体である事に、レジエはまだ気づいていなかった。
７．You don't have to use a knife to kill him.
パーティー会場の壇上では、例の余興で招いたというイリュージョニストたち（長身の美青年＋金髪美女４人という、いかにも耽美なメンバー構成であったが）の胴体切断や瞬間移動などのマジックでひとしきり盛り上がった後、フォークランド卿が車椅子で主治医ゴードンに連れられ、壇上で挨拶を始めた。
「この度は、我が館に皆様にお集まりいただき、大変嬉しく思っております……」
レジエたちと客間にいた時とは、比較にならないほど朗々とした声だった。
どうやら彼は彼なりに、このパーティーに気合を入れているようだ。
フォークランド卿の挨拶が半ばほどに進んだ時、突如として周囲が暗闇に包まれた。
それまで会場は白一色に染まっていたというのに……一瞬にして「黒い世界」に変わった。
パーティー客の中にはざわつく者もいたが、これも何かの余興なのだろうと楽観的に考えている者も少なくなかったようで、パニックは起こらない。しかしレジエとポロックは違った。
「レジエ！ これはまさか……」
「何かを仕掛けてくるかもしれない、気をつけて……！」
と言うが早いか、レジエは暗闇の中に奇怪な輝きが瞬くのを見た。
シュゴオオオーッ！
闇の中から轟音とともに導き出された輝きは、そのまま壇上の方へと吸い込まれていく！
（あれは……まさかッ！）レジエは戦慄した。
照明が復旧した。その途端、会場からは絹を引き裂くような悲鳴が次々と上がった。
壇上のフォークランド卿が胸から血を流して倒れこんでいたのだ！
「フ、フォークランド様ッ！」ゴードンが真っ青になって主人に駆け寄る。
「しまったッ…………私とした事がッ！」唇を噛むレジエ。
「まだ……フォークランド様は息がありますッ！ 救急車を呼べば助かるッ！」
悲痛ともいえる絶叫を上げ、ゴードンはＰＨＳで連絡を取り始めた。
だが、財界人たちにとってフォークランド卿の生死などどうでもいい事だった。
「なんだ？ 暗殺テロか！」
「しかし銃声らしき音は聞こえなかったぞ」
「オレは巻き込まれたくねえ！ 死にたくなんかねえぞ！」
パーティー客たちは今度こそパニックに陥った。我先に会場を後にしようとする。
「待てィ！」
突如響いた大喝に、財界人たちの動きが止まる。あれほど喧騒に包まれていた会場が水を打ったように静まり返った。
側にいたポロックも驚いていた。大声を張り上げた主は、他ならぬレジエだったからだ。あの寡黙な青年に、これほどの迫力は今まで感じる事がなかった。
「あなた方に帰ってもらう訳にはいかない……フォークランド卿を狙撃した犯人がいるかもしれないからなッ！」
レジエは気づいていた。フォークランド卿の胸を貫いたのは銃弾などではない。
吸血鬼の持つ能力。目から高圧で体液を発射する技。
かつてストレイツォが「 空裂眼刺驚」（スペースリパー・スティンギーアイズ）と名付けたものだった。
レジエ自身、これまでつぶさに見た事はなかったが、メッシーナ師範から聞いた特徴と一致する。
一時はレジエの迫力に気おされた彼らだったが、声を発したのが20歳そこそこの青年だと知ると、いっせいにレジエを口汚く罵りはじめた。
「なんだ小僧。オレたちに向かって偉そうに命令しやがって！」
「どこから紛れ込んできやがったんだ田舎者が。身の程というやつをわきまえろ！」
「オレたちを誰だと思っている？ きらびやかな宝石のように選び抜かれたエリートだぞ！」
威勢だけは一丁前だった彼らも、レジエがひと睨みするとすぐに押し黙る。
とはいえ、レジエの迫力だけでこの場を納める事は不可能に近い。会場内では危険なムードが漂っていた。その危うさにはレジエ自身も気づいていたが……助け舟は意外な所から現れた。
「まぁ〜まぁ〜皆さん。ここはひとつ、そこのお若いのの言う通りにすべきじゃと思うがの」
８．This isn't a set up. It's the real thing.
緊迫した場にそぐわない、脳天気な声の主は……ナジーブだった。
「ナ、ナジーブ・マハフーズ上院議員……」
「あの『不眠不休』のナジーブ……」
「なぜ、こんなパーティーの会場に……？」
財界人たちの視線はお世辞にもナジーブに好意的とは言いがたい。無理もない。このパーティーは反ナジーブ派の総本山とでも言うべき会合であったからだ。
「そこのお若いのの言葉……スジは通っておる。
この会場は密閉されており、外部からの侵入者は皆無と言ってよい……となれば、我らの中にフォークランド卿を撃った曲者がおるという事……そうであろう、お若いの？」
ナジーブの言葉に、レジエは無言で頷いた。
それからのナジーブの弁舌は、見事という他はなかった。少なからずナジーブを快く思っていなかったパーティー客たちの混乱を収拾し、その場に留め置く事に成功した。また警察の介入についても（レジエたちにしてみれば、吸血鬼による新たな犠牲者が増える危険を冒したくはなかった）彼らの政治上の弱みにうまく付け込み、連絡を１時間ばかり遅らせる旨を納得させるに至った。
「……助かりました。なんとお礼を申し上げてよいやら」
フォークランド卿が救急車によって運ばれたのを見届けた後、ポロック理事はナジーブに深々と頭を下げた。もっとも、背の差があって腰をかがめてようやく対等の高さになるといった有様だったが。
「いや、なに。こういう非常時にこそ、冷静に対処すべきじゃ。不必要な混乱は、さらなる災厄を招くと、昔から相場は決まっておるでのう……ところで」
ナジーブは言葉を切った。
「フォークランド卿を撃った犯人……見当はついておられるのか？」
ポロックとレジエは言葉に詰まる。それを見てナジーブは笑みを浮かべて続けた。
「お見受けしたところ、あなた方はこの件に関して、何やら特別な事情をご存知のようじゃ。
宜しければ、お聞かせ願えませぬかな？ ワシもエジプト議会を代表する政治家のはしくれ。
お役に立ちたいのですじゃ。この場にいる方々の安全を守るためなら、できる限りの力を貸す事を約束いたしましょう」
白い歯を見せてニカッと笑ってみせる。異様であったが、ユーモラスな雰囲気もありその笑顔はどこか憎めないところがある。
「……分かりました」レジエは答えた。
「ナジーブ上院議員。あなたは他の方に比べ頭も良く、話も分かる方だ……あなたになら、真実をお話ししても差し支えないでしょう……よろしいですね？ ポロック理事」
レジエはポロック理事とゴードンらに会場の財界人を見張るよう頼んだ後、ナジーブに「石仮面」と「吸血鬼」の伝説を話すべく、会場を後にしようとした。
「しかしレジエ。いいのかね？
この会場に『吸血鬼』が潜んでいる可能性は拭い切れないというのに……」
ポロックが心配そうに声をかけるが、レジエは辞書を取り出して答えた。
「心配ご無用。今のところ、パーティー客に不穏な動きをする者はおりません。
私にはナジーブ氏に真実をお教えする事と、メッシーナ師範にこの事件を伝える義務があります。
それに……」
レジエは辞書のページをおもむろに破った。テーブルに置いてあったワイングラスの中にそれを浸し……バラバラにして空中に解き放つ。
「たとえ私が不在でも、私にはこの『生命探知の波紋』がある。
何か異変があれば、紙片に反応があります。師範と合流したら、すぐに駆けつけますよ」
自信たっぷりにそう言ってのけると、レジエとナジーブは会場を後にした。
９．Keep an eye on her.
「ウゲッ、グエッ、グゲェェェ〜〜〜〜ッ…………」
ミラションはトイレの洗面所で、胃の中のありったけのものをブチまけていた。
「ハアッ、ハアッ、ハアッ…………」
先刻の一件でナジーブに精神的に追い詰められはしたが、ミラションは予定を変える気はなかった。
（今まで……何度もヤツに『賭け』を挑んだ……だが、ヤツは隙を見せない……
我がスタンド『取り立て人マリリン・マンソン』が付け入るべき隙を……チクショウッ！
せっかく『仮釈放』になって……またシャバで好き勝手できると思ったのによォー……
とにかく今の『任務』だ……今日中に結果を出さなければ……
『ホワイトスネイク』に命じられた任務……ナジーブのスタンドの秘密を探り出す事……
それができなけりゃあ、刑務所に逆戻りどころか、あたしの命すら危うい……）
フラフラとトイレを後にすると、会場からちょうど悲鳴が上がっていた頃だった。
（ン…………？ 何が起こったんだ…………？）
ミラションが廊下を見やると、ふと黒い人影がその場を飛び立ったように見えた。
目をしばたたかせる。一瞬だったのでよく分からなかった。人影はどこにも見当たらない。
（気のせいか……）
興味をなくし、会場に戻ろうとしたその時、ミラションは床に何かが落ちているのを発見した。
今度は幻でも、気のせいでもない。近寄って眺めてみる。
それは仮面だった。怪しげな呪術師が儀式にでも用いそうな、石造りの仮面。
手に取ってみると、わずかではあるが血痕が付着していた。
（何だァ、これは…………？）
周囲には誰もいない。ミラションの脳裏に浮かんだ言葉はただひとつ。
猫糞（ねこばば）。
生来の盗み癖のため、彼女にはそれ以外の選択肢は考えられなかった。
（こんだけヒドイ目に遭ったんだ……たかが落ちてた骨董品１個パクったところで……）
「おいお前ッ！ そこで何をしているッ！？」
背後から突然怒鳴られ、ミラションは心臓が口から飛び出しそうになった。
恐る恐る振り返ると、そこには奇妙な帽子とローブを羽織った老人……メッシーナがいた。
「おい。あんた……今確かに見たぞ。
今あんたが持っていたのは……行方不明になっていたあの『石仮面』……！」
ずかずかと近寄り、ミラションの手に取っていたものを無理矢理奪おうとする。
ところが……彼女の手には何も握られてはいない。
「…………いったい、何の事でしょうか？」ミラションの声は落ち着きを取り戻していた。
「そ、そんなバカな。今確かに……！」
メッシーナはまじまじとミラションを眺め回す。石仮面らしき影はどこにもない。
「貴様、いったいどこに石仮面を隠した？ 正直に言え！ 隠すとためにならんぞ！」
「あたしはそんなもの、知りません」
「何だと……貴様、よくもぬけぬけと……！」
「何をするんです！ セクハラで訴えますよッ！」
と、二人が取っ組み合いになりかけたところで、別の人間の靴音が聞こえてきた。
慌ててメッシーナとミラションは離れ、動きを止める。
「どうしたんですかメッシーナ師範！」
「ミラション君。いったい何の騒ぎだねこれは？」
騒ぎを聞きつけてやってきたのは、レジエとナジーブだった。
10．Win or lose, it's nothing personal.
メッシーナ、レジエ、ミラション、ナジーブの４人はそれぞれ自己紹介をしてお互いの身分や立場を確かめ合った後、パーティー会場で起こった事件と、メッシーナとミラションのトラブルについても情報を交換し合った。
「つまりはこういう事かね？」ナジーブが話をまとめるべく口を開いた。「この館には吸血鬼を生み出す『石仮面』という危険な代物があり、今それは盗み出されてしまっている。また会場でフォークランド卿を襲った犯人は、石仮面によって吸血鬼になった何者かである可能性が高い、と」
「その通りです」とレジエ。
「いいや、盗まれた石仮面はその女が持っている。この目で見たのだ！」メッシーナは主張した。
「しかしミラション君は知らないと言っておるよ。何なら身体検査してもいいと」
「ええ、勿論ですわ」ミラションも憮然とした表情で、あくまで譲らないつもりらしい。
「どこか、別の場所に隠したんだろう。しらばっくれるな！」
「まあまあメッシーナ師範。もしかしたら師範の見間違いかもしれませんよ」たしなめるレジエ。
「何だとレジエ！ お前なぜあんな女の肩を持つのだッ？」
「肩など持ってはいませんよ。現段階では師範の証言だけで、証拠も何もありませんからね」
「ぐッ…………」
「まあまあ。師弟で言い争っている場合ではないのではないかね？」とナジーブ。
「いつまでも会場をポロックさんたちに見張らせているワケにもいきますまい？
『波紋使い』であるあなた方でないと、吸血鬼は倒せないのじゃろう？」
「それは……確かにそうだが……」とメッシーナ。あくまで納得いかない様子だった。
「では……こうしましょう。メッシーナさんとあたしとで……ひとつ『賭け』をしませんか？」
ミラションの提案は唐突だった。メッシーナとレジエの目が丸くなる。
「『賭け』…………？」
「そう。賭けです……メッシーナさんはあくまでも、あたしがその『石仮面』を盗んだと主張してはばからないようですし……ですから賭けをして、
もしメッシーナさんが勝ったら、
あたしは『あたしの持っているものすべてをメッシーナさんに差し出す』。
そしてもしあたしが勝ったら……
メッシーナさんからその『石仮面に見合うだけの金額を請求する』……でどうかしら？」
「なッ…………！」さしものメッシーナも絶句した。
「これでしたら……あたしが『石仮面』を持っていようがいまいが、メッシーナさんのご希望に添える事ができると思いますけど？」
「バカを言うな。こんな時に……」
「いや師範。なかなか面白い提案だと思いますよ」
意外な事に、レジエは賭けに肯定的な意見を発した。
「レジエ…………！」
メッシーナは非難の声を上げたが、レジエは取り合わない。
「ところでミラションさん。まだ『賭け』のために行う内容について聞いてませんが？」
「それは……どうじゃね？ フォークランド卿を撃った『犯人』を探す、というのは？」
ナジーブが切り出す。どうやら彼もまた、この「賭け」に乗り気なようである。
「ミラション君はワシの秘書じゃ。ワシとミラション君、メッシーナさんとレジエさんとで、２人ずつチームを組んで……どちらが先に真犯人を見つけ出すか、でどーかね？ ミラション君」
「ナジーブ先生がそのようにおっしゃるのであれば」ミラションは頷いた。
「バカな！ 正気の沙汰ではないッ！ 相手は吸血鬼だぞ！」メッシーナは激昂した。
「そうと決まったわけではありませんわ」とミラション。
「それにの、メッシーナさん。ワシらは深く首を突っ込むワケではない」とナジーブ。
「もし我らの手に負えぬような輩であれば……すぐにあなた方をお呼びする。先に怪しいヤツを見つけた時点で『賭け』はおしまいじゃ。単なる『余興』じゃと思って下さればそれでよい」
「メッシーナ師範」レジエはメッシーナに寄り、囁いた。
「この『賭け』の発端は……貴方にある事をお忘れなきよう。師範がミラションさんを疑ったからこそ……彼女はこうして提案せざるを得なくなったのですぞ」
レジエの言葉には……少なからず悪意が混じっていたように、メッシーナには感じた。
沈黙したメッシーナの態度を、無言の肯定と受け取ったレジエは、ミラションに告げた。
「いいでしょう、その『賭け』……受けましょう」
「…………グッド！」ミラションはニヤリと笑った。
ミラションは思わぬ儲け話のチャンスに有頂天で、本来の目的を忘れていた。
（あんな古ぼけた仮面ごときに、そこまでこだわるなんて……
こいつらにとってはよっぽどの価値のあるモノみたいだ……いくらでも払いそうじゃない？
いざとなれば『取り立て人』を使って、こいつらから有り金全部を巻き上げてやるッ！）
ナジーブはミラションの顔を盗み見た。
（この女……ワシの『何か』を狙っておる上、ワシと同じ『能力』の持ち主じゃな。
これまで一度もその『スタンド』を見せておらんが、今までの行動からして、何か『ギャンブル』に関わる能力じゃろう……この『波紋使い』どもを利用し、どんなスタンド能力なのかを見極めてやるッ！）
メッシーナはレジエに対する不信感を打ち消す事ができなかった。
（レジエのヤツ！ なぜこんなバカげた賭けに乗った！？ 自信過剰にも程があるぞッ！
もし賭けに負けて、石仮面を回収できなかった場合は……腕ずくでもこの女から奪わねば……！）
レジエは相変わらず、自信満々だった。
（師範は頭が堅すぎる……彼女が石仮面を持っているかも疑わしいのに、力ずくなどナンセンスもいいところだ！ それに我々が『賭け』に負ける事などあり得ない。
吸血鬼を見つけ出す事、そして倒す事はいずれも我ら『波紋使い』の独壇場！
それに何より……我が『辞書』に不可能の文字などないのだからなッ！）
四者四様の思惑を胸に、彼らがパーティー会場へ足を踏み入れようとするのを……物陰からじっと凝視している人影がいた。そいつは熊のような大男……
「BEEEEEEEE…………」
ウィリアム・フィリップス上院議員だ。
その口からは、人間のものとは思えぬ獣のような唸り声が洩れていた。
Ｔｏ Ｂｅ Ｃｏｎｔｉｎｕｅｄ ！！
おまえらにィオレの最後のォ最後のォォォー戦いを挑んでやるゥゥゥゥゥーッ！！（自爆）
つーワケで邪悪なMM、Ｌ氏ーどの第四の策略はオリキャラを交えたタッグ・マッチ！
本来ならこんなややこしい話にする予定は全然ありませんでしたが……なんつーかお二人の人選の妙もあり（汗）こーならざるを得ませんでした。フ〜。
とりあえず名前のある登場人物だけでも整理をすると……
| ミラション | （♀） | ナジーブの秘書。スタンド：取り立て人マリリン・マンソン |
| ナジーブ・マハフーズ | （♂） | 上院議員。与党の最長老。スタンド：セベク神 |
| メッシーナ | （♂） | 波紋法の師範。レジエの師匠 |
| レジエ | （♂） | 波紋使い。奥義「波紋黒死蝶」を使う |
| ポロック | （♂） | SPW財団の理事 |
| ウィリアム・フィリップス | （♂） | 上院議員。ナジーブのライバル。吸血鬼？ |
| フォークランド卿 | （♂） | ウィリアムの叔父。現在重体 |
| キャロライン・フィリップス | （♀） | ウィリアムの娘。先天性の奇病を持つ |
| ゴードン | （♂） | フォークランド卿の主治医 |
この対戦小説は、柴犬さんと蛙男さんの対戦ソースを元に、Ｌ氏ーどが構成しています。
解釈ミスもあるかもしれませんがご容赦ください。
柴犬さんと蛙男さん及び、ミラションとメッシーナ、そしてナジーブとレジエにもありがとう！