Story Tellers from the Coming Generation!
Interactive fighting novel JOJO-CON
叛逆者たちの狂宴・終章
Ｅ１．暗示
Ｅ２．逆位置の悪魔
通信の傍受を打ち切った男の部屋に、ノックの音が響いた。
「…………ブルックです」
「入れ」
男はブルックと名乗った青年を迎え入れた。
部屋の中は薄暗く、膨大な資料の束、ところ狭しと並んでいる精密機器、コンピュータの類……まさにマッド・サイエンティストの牙城ともいえる乱雑な空間であった。
男は様々なディスプレイの光に当てられ、ゆっくりと椅子を回転させこちらを向いた。
白衣を纏い、病的に痩せこけた肌が暗い光のため、青白く不気味なコントラストを示している。
またその顔には、左右非対称の奇妙な眼鏡をかけており、右側は反射するかのようにブルックの顔を映し出していた。
左側から覗く感情のない瞳に射すくめられ、ブルックは慌てて口を開いた。
「えーとですね。報告の前に……あなたから頂いたものを『お返し』しておきます」
ブルックは「逆法皇」の糸を垂らし……科学者の指に繋げた。
ギャン！
「フフ、いいぞ……新たな力が湧いてくる、いい感触だ……」
『接続』が終了すると、男は即座にパソコンに向かい合い、恐ろしいまでのスピードでキーボードと叩き始めた。
「……首尾は上々のようだな」
「はい。大方はあなたの計画どおり……あなたの『記憶』を植え付けられた『枢機卿』も……
あなたの身代わりとなって死ねた事を、あの世で喜んでいる事でしょう」
心にもない言葉を、無感動で告げるブルック。
「逆法皇」の記憶移植能力によって、一般人である「枢機卿」をアンドリューと名乗らせ、影武者として今回の作戦の陣頭指揮を取らせた……それが真相であり、「逆位置の悪魔」の策略であった。
「では報告をば……よろしいですか、『ドクター』？」
「許可する」応答しつつも……「逆位置の悪魔」の男は、その手を緩めない。
「キャプテン・テニール、カール・ハイゼンハンガーは死亡。マライアは身柄を拘束されました。
『叛逆の徒』たちも……『戦車』『力』は死亡。『隠者』『塔』はSPW財団の手に落ち……
まァ〜要するに、ボロ負けってヤツですね。
当然ながらトリッシュも奪い返されましたし、『槍』も取られちゃいました。ハハ」
「……構わんよ。『槍』そのものは解放された。
その『所有者』が誰であるかは……問題ではない。今はな」
科学者の手が止まった。ディスプレイ上に並ぶ膨大な言語の羅列。
やがて、ビープ音と共にメッセージが表示される。
＜プロジェクト・ニルヴァーナ：プログラムNo.B
コードネーム『Steal Your Heart』……インストール完了＞
ブルックはその画面を見て、驚愕を隠せなかった。
移植された記憶を元に……グロリアのスタンド・メカニズムをプログラム化したのだ！
耐えがたい悪寒が全身を支配すると同時に、ブルックは激しい興奮を覚えていた。
やはりこの男は……天才だ。それ以外にどう表現しろというのか。
「これで、彼女にはもう用はない。貴重な実験データも入手できた。
組織『悪魔』は現時刻を以って解体。わたしからの指示があるまで、各自『潜伏』を命じろ」
「……心得ました。ところで『ドクター』……
今回の件、ひとつだけ個人的に引っかかる点がありまして……質問してもよろしいでしょうか？」
Ｅ３．少女の謎
「その疑問とは……彼女。エリス・ロポーチェンについてです。
彼女はなぜ、ポルナレフの魂を己の『塔』のスタンドとできたのですか？
あなたの話では、彼女の能力で繋ぎ止める事のできる『魂』は１つ、２つがせいぜいだと。
エリスはすでに『姉２人』の魂を持っていたはず。まさか……」
「わたしは嘘は言ってないよ。彼女の能力では、確かに……１〜２人の魂で限界だ」
「ではどうして……」
「ブルック……きみは彼女の『記憶』を読んだのではなかったのかね？」
「読みましたよ。彼女は幼少のみぎり、姉二人に散々虐待を受け、挙句父親は蒸発、母親もそのショックで彼女に辛く当たり……結果『スタンド』が目覚め、母と姉たちを殺した、と」
「それは彼女が……『扉』に記憶を封印してからのものだろう？ 不自然だとは思わなかったかね」
「確かに……心にキズを負うほどの虐待を受けている娘を、ほったらかしにするなんて……薄情な母親だなあとは思いましたけど……」
「どうやらきみに対しても、エリスは『都合のいい』記憶しか明らかにしていなかったようだな」
「…………？」ブルックには彼の言葉の意味が把握できなかった。
「彼女の両親は……母親は離婚し、一人娘であるエリスを引き取った。
その後、日本人の父親と再婚するのだがね……ちなみに『真山祥造』という名の金持ちだった」
「はあ……つまり、父親の娘２人が継姉となって、エリスをいじめていたと……？」
「その仮説もおかしいとは思わないかね。あの『姉』たちがエリスと血が繋がっていないとするには……あまりにもよく似ているだろう？」
「言われてみれば……３人とも『双子』のようにそっくりでしたねえ……」
「それに、父親の方はそれまで未婚だったのだぞ。しかも彼らが家族として生活していたのは、たったの１年間でしかない……」
「おかしいじゃあないですか。それでは『姉』たちが入り込む余地がない。
あの２人は……いったい何者なんですか？」
「それはだね……」
Ｅ４．悲しき真実
「ポルナレフさん……とっても素敵な人……
あの人の言葉を聞いているだけで、気持ちが和らぐっていうか、勇気が湧いてくるっていうか……
もし、もっと早く彼と出会っていれば、わたしの運命も……変わっていたかもしれない。
そう思わない？……『姉さん』」
密閉された、白亜の空間。
そこには２人の少女……エリスの姉たちが、氷漬けになって囚われていた。
傍らには厳しい鉄扉があるが……その錠は外れてしまっている。
ここは「象牙の塔」の「記憶の扉」の中の世界であった。
エリス・ロポーチェンの言葉に、彼女たちは恐怖に硬直した。
その声は以前に比べ、憂いは消えていたが……２人を嘲笑うかのような口調であった。
「『記憶の扉』を開けて……わたしはすべての真実を知った。
皮肉ね……今となっては『知らないほうがよかった』かもしれない……
分かる？ わたしの悲しみ。わたしの絶望が……分かるワケ、ないか。
あなた達は……わたしの姉でも何でもないんだもの」
「ひィ…………！」恐ろしさのあまり涙する「妹」。その涙ですら、即座に凍りついてしまう。
「エリスゥゥ、貴様……」
「あなた達がわたしに吹き込んでいた『嘘』は……わたしの『望み』でもあった。
たとえ事実でも、認めたくなかったのよ……『最初からママがわたしを虐待していた』なんてね……
わたしは、ママを信じたかった……昔の、優しかったママを。
だから『あなた達』を生み出した……虐待していたのは、あなた達だと……信じ込む事にした。そしてすべての記憶を……この『扉』の中に封じた……
分かる？ ママに愛されていなかったなんて、残酷な真実を突きつけられた時の絶望。
怒りよりも、憤りよりも……ただ……悲しかった……」
エリスは泣いていた。堰を切ったようにとめどなく涙が溢れてくる。
「でも、もういいの。わたしには『逆位置の悪魔』がいるから……
真実を知った今、あなた達は……もう用済み……」
姉妹にとって、最も恐れていた言葉が……エリスの口から洩れた。
「エ、エリスゥ！ 悪かったよッ！ 今までイジめてて、ゴメン！」
途端に「妹」は平謝りに謝り出した。「姉」が咎めるように彼女を見やるが、気にも留めない。
「だから許してっ！ ねッ！ あたし達消えたくないのよ……
これからはアンタのために、犬馬の労ってヤツを尽くすからァ〜……！」
卑屈に懇願する「妹」。
「どーしよっかなァー……」
エリスはにっこりと微笑んで……やがて、告げた。
「やっぱり……ダメ」
『！』
「だってあなた達……『名前がない』んだもの。生み出した時、名づけなかったから当然だけど……」
ビキビキビキ……！
半分氷漬けだった少女たちの身体が……さらに分厚い氷に覆われていく。
「い、イヤァァァァッ！！」「エリス、キサマなんぞにィィィッ！！」
絶叫を上げる「少女」たちを、エリスは冷笑を浮かべて眺めていた。
その笑みは、かつて彼女たちがエリスを見下していた時のものに……あまりにも酷似していた。
「…………エリス？ まだ中にいるのか？」扉の向こうから、ポルナレフの声がした。
「ごめんなさいポルナレフさん……とても素敵な『過去』だったから……
もう少し、この中で……こうしていたいの」
気持ちとは裏腹の言葉が自然に出てくる。エリスは少し悲しかった。
「きみの記憶は……きみのものだ。大切にしなよ……」
「うん…………ありがとう」
（やっぱり、素敵な人……せめて『逆位置の悪魔』と会う前に……巡りあいたかったなァ……）
エリスは知っていた。自分の「役割」を。これから待ち受ける過酷なる「運命」を……
Ｅ５．叛逆者の喜悦
「逆位置の悪魔」の望み。それは「輪廻」からの魂の解放。「運命」への叛逆。
そのための手段である「プロジェクト・ニルヴァーナ」……それは「叛逆への道」。
彼はまだ、その第一歩を踏み出したに過ぎない。
思ったより多くの時間を費やしてしまったが……肝心なのはここからだ。
「ククク…………」
運命の強き「一打ち」は、力ある「神」の自我ですら、打ち砕いてしまった。
そう、「神」でさえも……運命に抗う事は叶わなかったのである。
南極で起こった一連の「奇跡」が……それを証明していた。
だが、自分は違う。運命に逆らうすべを知っている。それが「プロジェクト・ニルヴァーナ」。
それはまさしく、神ですら成し得る事のできなかった……偉大なる奇跡。
それを成し遂げた時、自分は、世界は……どう変化するのだろう。
それを想像するだけで、喜悦にも似た高揚感が「逆位置の悪魔」の男の心を満たした。
狂わされた「運命」がもたらす宴は終わらない。すべては……始まったばかりなのだ。