Story Tellers from the Coming Generation!
Interactive fighting novel JOJO-CON
叛逆者たちの狂宴・中篇
11．Deranged Harmit
12．謎の解明・新たな問題
「逆隠者」の術中に陥った承太郎を見て、ミスタは毒づいた。
「クソッ！ 遅かったか…………！」
「ドーユー事ナンダヨミスタァ〜……『逆隠者の能力』ッテノハ……？」
ピストルズNo.5がすがるように訊いてくる。
「『氷漬け』ニシテ、攻撃ヲ跳ネ返ス事ジャアナイノカ〜？」
「違う……そんなチンケなモンじゃあねー。
それに、さっきの『氷』は……ヤツ自身の能力でもねえ」
「？ ジャアサッキノハ……」No.5にはミスタの言葉の真意が理解できなかった。
「あれはよォー……間違いねえ。『ホワイト・アルバム』だ…………」
「エエッ！？ ソンナ馬鹿ナ……！
ソノ『スタンド使い』ハ、昔ジョルノと一緒に倒シタハズダロ？」
「確かにな……だがよォー、さっき確かに見たんだ。ギアッチョと『ホワイト・アルバム』を……
それにこの弾痕も、ヤツの技『ジェントリー・ウィープス』で弾き返されたからできたんだぜ」
ミスタは傷口を乱暴に止血して、腰をかがめた。弾丸の装填も忘れない。
「これでヤツの……『逆隠者』のスタンド能力の謎は解けた。
ちょいとばかし『問題』はあるけどよォ〜……『弱点』も判った。
ヤツの能力は『攻撃してきた相手の記憶を読み取り、その記憶の中に眠る”最大の敵”の幻覚を見せて
反撃する事』だ。オレの場合は、ギアッチョの『ホワイト・アルバム』だった……
そーだな。あの時、ジョルノがいなかったら……きっとオレは殺されてた」
「ジャア、承太郎モ……」
「今ごろ、頭ン中で強敵との闘いを繰り広げているトコだろーぜ。
幻覚の中でキズつけば、現実世界でもキズを負い……中で殺されちまえば、おそらくこっちでも死ぬ」
「ソンナァ〜……何カ助ケル方法ハナイノカヨォ〜」
「方法はある……『弱点』は判ったって言ったろ？
さっきヤツは、オレから承太郎さんにターゲットを変更した」
言いつつ見やると、「逆隠者」の男と承太郎は対峙したまま、一歩たりとも動いていなかった。
「つまり……ヤツの能力が及ぶのは一度に一人が限度なんだ……
だからよォー……オレが加勢してやって、アイツの後頭部でも一発ブン殴ってやれば、それで承太郎さん
は助かる」
「ジャア、早ク助ケネートッ……！」
「待て待てNo.5…………話は最後まで聞けよ。言ったろ？ 『問題』があるってよォー……
やっこさん連中は、そんな『弱点』なんざ最初から知ってんだ。
オレがオメーらセックス・ピストルズの長所も短所も知り尽くしてるよーにな……」
「『問題』ッテ何ナンダヨォ〜……ハッ！」
無言であごをしゃくるミスタ。その仕草を見て、No.5も周囲を見回し、気づいた。
「そう、新しい『問題』は……今、オレたちが置かれている状況さ」
いつの間に近づいてきていたのか。
総数20ものアサルトライフルの銃口が、ミスタひとりに向けられていた。
13．セックス・ピストルズvsセックス・マシンガンズ
（オレとした事が……さっき『逆隠者』の能力を食らって、スタンド能力ごと『幻覚』の中に引きずり
込まれちまった隙を突かれるたぁーなー……）
心の中でミスタは自嘲した。すると、傭兵の一人が居丈高に告げてきた。
「グイード・ミスタ！ 貴様は完全に包囲されている……我が部隊『セックス・マシンガンズ』の精鋭に
よってな」
（セックス・マシンガンズだと？…………ふざけた名前だぜ。
何が気に入らねーって、オレさまのカッチョいいスタンドネームをパクってやがる事だ……）
「我が号令が下れば、貴様は原型も残らずトマトケチャップ以下の存在に成り果てる……」
「それがイヤなら、おとなしく銃を捨てて投降しろ、ってか？」おどけて問うミスタ。
「そう言ってやりたいのはヤマヤマだが……残念ながら雇い主の依頼は貴様の抹殺にある。
よって助命嘆願の一切は拒否するものと思ってもらいたい。
……そうだな。最期に何か、言い残す事はないか？」
随分と慈悲深い事だ……皮肉とともに笑みがこぼれるのを、ミスタは抑えられなかった。
「……どうした。何がおかしい？ 死に直面して気でも違ったのか？」
「オメーら……スタンド使いでも何でもねーな？
オレがさっきから空中に出現させてる『ピストルズ』に対し何の反応も示さねえ……
オメーらがそんなオモチャで取り囲んだからって、このミスタ様をブッ殺せると本気で信じてやがるモン
だからよォー……すまねえ。つい、吹き出しちまった。わりィな」
「それがどうしたというのだ？ 確かに我ら『セックス・マシンガンズ』はスタンド使いではない。
だが、貴様の能力については雇い主から聞かされている……『弾丸』を操作するそうだな？
とはいっても、その操作能力はせいぜいリボルバー式の貧弱なピストル一丁がせいぜいだろう。
我ら20名の携帯する『Ｈ＆Ｋ ＭＰ５Ａ３』の狙撃すべてを捌ききるなど不可能だ」
「おいおいおい……オレのスタンドを見くびりすぎてねーか？ クソッ。
……じゃあ、試してみな。できねーかどーかを、よォ〜」
ミスタは余裕ぶった様子で、笑みを浮かべつつ挑発した。
「…………死ね」
合図が下り、傭兵たちは一斉にライフルのトリガーを引いた！
ドバァァァッ！！
「今だッ！ 気合入れて行けッ『セックス・ピストルズ』ッ！！」
６体のピストルズがミスタを囲むように円陣を組み、その雄叫びが唱和する！
イィィィーーーーハァァァーーーーッッ！！
20の方向から飛来するライフルの弾丸に対し、ピストルズたちは果敢に挑みかかった。
その刹那…………！
ガガガギィィィンンッ！
空中で凄まじい衝突音が響き渡り、弾丸の軌道は元来た方向へ……傭兵たちへと戻っていく！
バスバスバスバスッ！
「げぇッ」「ぐぎゃッ」「うぐほッ」「ぎぴィッ」
頭や首などに銃弾を跳ね返され、次々と傭兵たちはくずおれていった。
「１（ウーノ）、２（ドゥーエ）……12人撃墜、か。ま〜計算どおりだな……」
「バカなッ…………！」絶句する残った『セックス・マシンガンズ』。
さて、ここでミスタの取った反撃方法について説明しよう。
１．打ち込まれた20発のうち、最も速い６発に「ピストルズ」を一体ずつ向かわせる。
２．「ピストルズ」の弾丸操作能力により、それぞれ弾丸を蹴り、２つに割る。
３．割って２つにした弾丸を、さらに飛んできた弾丸２発にぶつけ、軌道を変更させる。
４．これが６箇所で同時に行われ、20発中12発の銃弾が使用者へと跳ね返っていく。
弾丸破壊とビリヤード殺法を組み合わせた高度なカウンター技術（テク）ッ！
対処しきれず残った２発は、反射的に身をひねって、左耳と右腿をかすった程度で済んだ。
（さっき幻覚で『ジェントリー・ウィープス』くらってなかったら、思いつかなかったかもな……）
傭兵たちが呆然としている隙に、ミスタはすかさず拳銃を構えて上空へ向かって６連射した。
「残りは８人……もう一仕事だ『セックス・ピストルズ』！」
ミスタの頭上には当然、ピストルズたちがすでに待機している！
６発の銃弾がピストルズたちの蹴りによって、立ちすくんだままの傭兵たちに降り注いだ！
ドガドガドガッ！！
今度は悲鳴を上げる暇すらなく、６人が地にひれ伏した。
「数年前の抗争の時、なんでオレ以外に『拳銃の使い手』の刺客が現れなかったか、知ってるか？
答えはカンタン。オレ以上に凄腕のヤツがいなかったからさ。
さてと。あとはアンタら２人だけだが……まだやるかい？」
さすがに今度の挑発には、残る２人も乗っては来なかった。
「ヒィッ…………！」
モラルもプライドも崩壊した傭兵たちは、我先に戦場を離れようとした。
14．新手の『スタンド』
（ちーっとばかし、かすりキズ負っちまったがよォー……結果オーライ。
どーにか『セックス・マシンガンズ』どもを壊滅に追いやったか…………ン？）
背を向けて逃亡する２人を見て、安堵しかけたミスタは、ふと異変に気づいた。
ヒュウウウッ…………！
烈風のような唸りとともに、２人から白い煙のようなものが一瞬噴き出した、ような気がした。
途端、２人の動きが止まる。ビクリと震え、ギクシャクした動作で同時にミスタに向き直った。
「！ 何だ……まだやる気かッ」うんざりした様子のミスタ。
だが次に起こった事は、ミスタを困惑させるのに十分なものだった。
「強いねェ〜お兄ちゃん！ すごいよ、見直しちゃったァ！」
「ホントはもーちょっとてこずってもらう予定だったのに……こいつらときたら、ふがいないんだから」
２人の傭兵の口から漏れた台詞。だが、その声は……
（『女』の声…………だと？）
それも、異様なまでに幼い口調……年端もいかない子供のような声だった。
「……いい年こいたオッサンが、ガキみてーなはしゃいだ声出してんじゃねーぞッ！」
「ひっど〜い、あたし達オッサンじゃないもん！」ふくれっ面をする傭兵。仕草まで子供っぽい。
「あ、お姉ちゃん……カオを変えてないから、分かりづらいのかもしんないよ！」もう一人が言う。
「そうかぁ……しょーがないなぁ。お兄ちゃんカッコいいから、特別サービスね！」
むさい中年男の顔でウィンクした後、２人は目を閉じた。
オガオガオガオゴゴゴ……！！
「！」ミスタは戦慄した。
傭兵たちの顔が、油粘土のようにグチャグチャと崩れていく。
奇怪な変化が一通り続き……しばらくすると２人の顔は、瓜二つの女の子のものとなった。
「これが、あたし達のホントのカオ！」
「かわいーでしょ？」
ミスタは帽子からの弾丸装填をしつつ、誰何の声を上げた。
「一体何モンだてめーらッ！……新手の『スタンド使い』かッ！
（さっき『お姉ちゃん』とか言ってやがったな……姉妹か？ こいつら……）」
２人は微笑む。この状況を楽しんでいるのがありありと判った。
「あたし達は、『デビル・リバース』の命令でアンタたちを殺しにやってきた『逆位置の』……えーと」
「『塔』よ、『逆位置の塔』」
「ああ、ありがとお姉ちゃん……『逆位置の塔』のカードの暗示を持つスタンド！」
「ちなみに『誤算』とか『危機』を暗示してるのよ」
「そしてその能力はッ……まあ、戦ってみれば分かるか、そんなの」
言って２人同時に笑う。無邪気だが、どことなく不気味な感じがした。
（クソッ、なーんか調子狂うぜ……
このミスタ様が、女子供を相手に戦わなきゃなんねーなんて……）
いかなギャングとはいえ、子供相手に平気で殺戮を行うのは「心の痛む」事だ。
と同時に、こんな女の子たちを差し向けてまで自分たちを殺そうとする「デビル・リバース」とやらの
やり口に、ミスタは嫌悪感を抱いた。
（待てよ……こいつら今『スタンド』って言ったか？ スタンド『使い』じゃあなく……？）
ミスタの心の引っかかりをよそに、『逆位置の塔』の少女たちは戦闘準備を整えたようだ。
「お兄ちゃんに『銃』は通じないんだよね……じゃあ『はくへーせん』しかないか！」
言いつつ、２人は同時にサバイバルナイフを抜いた。
顔や声こそ少女のものだが、その肉体はたくましい傭兵のままだ。
（チクショー……躊躇なんざしてられねー！
こいつらを倒して、承太郎さんを助けに行かねーとッ……！）
ミスタは非情に徹する「覚悟」を決めた。
15．エージェント・スミス
「逆位置の塔」の少女たちは、ナイフを振りかぶりつつミスタに迫った！
「キャーハハハハッ！」
「お命ちょ〜だいッ！」
「なめんじゃねーぜッ『ピストルズ』ッ！」
ガガガァン！
ピストルズNo.1、No.2、No.3にそれぞれ弾丸が託された。
（まずは３発ッ……『逆隠者』と同じよーに通じねーかもしれねーが……
試してみねー事には『先』に進めねえッ！）
弾丸はすべて「姉」を狙っている。多対一の戦いの鉄則「まずは１人を相手にする」を、ミスタは忠実に
実践していた。
（１人には攻撃、もう１人には防御ッ……コンビネーション技しかけられると厄介だしよォー）
「妹」のナイフ攻撃をすんでの所でかわし、ミスタは「姉」を見やった。
バスバスッ！
「…………あれ？」ノドと胸に風穴を空けられ、呆然と呟く姉。「しっぱい、しちゃったァ……」
ドサリ。
「姉」は致命傷を受け、その場に倒れてしまった。
「んなッ…………」
あまりにもあっけない。攻撃したミスタですら、拍子抜けしてしまうほど。
「あ〜あ」妹の気のない嘆息。「お姉ちゃんってば、ドジなんだから」
「オイ……なんかよく分からねーが……オメーの姉キはやられちまったぜ？
呑気に構えてる場合じゃねーと思うんだがよォ〜……」
ミスタは銃口を妹へと向けた。しかし彼女は動じない。
「敵なのにあたしの事、心配してくれてるの、お兄ちゃん？……ウレシーなぁ。
でも大丈夫。お姉ちゃんはあの程度の攻撃じゃあゼッタイ『死なない』から」
「…………？」
怪訝になってミスタは「姉」の死体を見た。
倒れたままだ。その顔はすでに中年男のものに戻っている。
（確実にヤツは死んでる。間違いねえ……でも『死なない』だと？ どーゆー事だ……？）
ミスタはこの時、己の犯した失策に気づいていなかった。
傭兵の死体と「妹」に注意を払っていたせいで、背後から忍び寄る気配を察知する事ができなかった。
最初に気づいたのはピストルズNo.1。だが、遅すぎた。
「ミスタ後ロダァーッ！！」
「何ッ！？」
ザグゥッ！
脇腹をナイフで貫かれ、派手に血が噴き出す！
襲撃者の正体は、先刻ミスタの反撃で肩を打ち抜かれ、気絶したはずの傭兵のひとりであった。
「一人一殺ゥ〜召し取ったり！ キャハハ楽しィ〜スリル満点ッ！」
「グッ…………て、てめェ…………！」
ミスタは力を振り絞って、傭兵の腹に蹴りを入れて突き飛ばした。
その男も肩から激しく血を流していたが、少しも痛がっている様子はない。しかも、見る見るうちに顔面
が変形し……「姉」の顔になった！
「もぉ〜分かっちゃったと思うけど……コレがあたし達『逆位置の塔のスタンド』の能力！」
「『生きた人間』のカラダの中に入って操れるの！」
「操ってる肉体が死んだら、もぉ操れないけど……その時はまた別のカラダに入ればいーし」
「あたし達は痛くもカユクもなァ〜い！」
「お兄ちゃんもギャングなんだからさァ〜キッチリ、コイツらにトドメさしておけばよかったのに」
「やさしーよねェ〜甘すぎるけど」
哄笑する少女たち。ミスタは愕然となった。
（殺しても死なねえ……次々『肉体を乗っ取る』だとォ？
昔見た『マトリックス』っつー映画の敵キャラみてーな能力だが……
いざ相手にしてみるとよォ〜……ややこしー事この上ねーぜ……）
16．緊急避難
ミスタにとって、深刻なのは肉体のダメージだった。脇腹のキズは予想外に深いらしく、意識が朦朧と
なりかけてしまう。
「てめーら……マジで何モンだ？ スタンドは『ひとり一能力』のハズだぜ……
２人いるクセに、２人して同じ能力なんてよォー……」
「言ったでしょ？ あたし達は『逆位置の塔』のスタンドだって」
「そう。あたし達は『エリス』のスタンドなの」
「……エリス？」聞き覚えのない女の名前に、ミスタは問い返した。
「そ。『泣き虫』エリスが、あたし達の本体」
「ナマイキなカマトト女だけど、あたし達のかわいー妹よ……血はつながってないけどね」
「あたし達を『殺した』ひどい女だけど、『デビル・リバース』の命令だから従ってる」
（殺した？ じゃあコイツら、ポルナレフさんと同じ『幽霊』なのか……？）
「デビル・リバースは、あたし達を救ってくれた『魂の恩人』なの！」
「それに何より、あたし達に『復讐』のチャンスをくれた……だから、あたし達はデビル・リバースの事が
大好き！」
「エリスはキライだけど」
『ねー♪』
口々に言葉を継ぎ続ける姉妹たちをよそに、ミスタは身を翻した。
（ここは傭兵どもの身体が多すぎる……場所を変えねーとッ）
また肉体を変えて、不意打ちを食らうのは厄介だ。
ミスタは倒れた傭兵たちの比較的少ない退路を見つけ、怪我の痛みを堪えつつひた走った。
（承太郎さんから遠ざかっちまう……『敵』はここまで計算してやがったのか？）
姉妹たちも逃げるミスタを追った。
追跡を楽しんでいるのか、精神を転移して攻撃してこないのが、ミスタにとって救いだった。
ミスタが曲がり角を抜け、２人の視界からその姿が隠れた直後。
「うおッ！？」唐突に、ミスタの小さな悲鳴が聞こえた。
「待て待て待てー！…………って、あれェ？」
少女たちが曲がり角にたどり着くと、ミスタは忽然と消えていた。
「逃げ足速〜いッ……見失っちゃったよォお姉ちゃん！」
「慌てないの。そう遠くには行ってないハズ……二手に分かれて捜すのよッ！」
「らじゃー！」
示し合わせた２人は、それぞれ別の方向へと走っていった。
『逆位置の塔』のスタンドたちが去った後、曲がり角の側にある狭い暗がりの中で……モゾモゾと動く影
があった。
ポルナレフの亀である。
「大丈夫か？ ミスタ……こっぴどくやられたな」
鍵の飾りの中の部屋で、ポルナレフはミスタの怪我を介抱していた。
「ああ……どーにか出血も止まった。すまねー、ポルナレフさん……助かったよ。
でもどうしてここに？ 亀は承太郎さんが持っていたはずじゃあ……？」
「承太郎が『逆隠者』の罠にハマる直前、おれを投げ飛ばしてくれたんだ。
その衝撃で亀はちょっとキズを負ってしまったし、ノロイ足でここに隠れおおせるのには、正直骨が
折れたが……しかし、役に立ててよかった。
この『部屋の中』でなら、普通の人間のようにふるまえるし、幽霊だから食事も排泄も必要ない。
ナイスガイのおれとしては、住みついた当初、中にトイレがないのには驚いたがね」
「ポルナレフさん……」
表面上はおどけているが、ミスタはポルナレフの苦悩がなんとなく理解できた。
自分も戦いたい。友が窮地に立たされているというのに、自分はこんな事しかできない。
再起不能の幽霊となってしまった彼に、この現状は屈辱以外の何物でもないのだろう。
「オレのせいだ……オレが先走りして『逆隠者』のヤローに仕掛けちまったせいで、承太郎さんはみすみす
危険に飛び込むハメに……『時を止める』能力が使えねーってのによォ〜」
歯噛みして俯くミスタ。ポルナレフは優しく諭した。
「そう自分を責めて、くよくよするな。
承太郎なら心配ない。あいつはタフな男だ……エジプトへの旅の時も、あいつの冷静な判断力のおかげで
何度も危機を脱する事ができた。
本当にマズイのは、失敗をしでかす事じゃあない。失敗から学ぼうとしない事だ……」
言葉が止まる。己の過去のあやまちを思い返し、ポルナレフは複雑な表情になった。
「承太郎は、それをよーく心得てる……だから、おれは信じる。
あいつは『逆隠者』ごときに屈したりはしないと。
それに、お前の行為は決してムダなんかじゃあない。
お前のおかげで、敵スタンドの能力も弱点も判ったんだしな」
「…………」
ポルナレフの説得に、ミスタは気持ちが落ち着いていくのが分かった。
「さて、ちょっと湿っぽい話になってしまったかな？
過ぎた事は気に病まず、これからの事を考えよう。ミスタ」
「…………ああ」
ポルナレフの明るい笑顔に、ミスタもつられてぎこちなくはにかんだ。
17．白い巨塔
「『隠者』の次は『塔』か……なかなか厄介な敵のようだな」
「ああ。幽霊がそのままスタンドになっちまったよーな連中だった。とりあえずはやり過ごせたが、ここが
いつバレるか分からねえ。
『本体』がいるとか言ってたな……エリス、とかいう女らしい」
ミスタの説明に、ポルナレフも唸った。
「エリス……名前だけ分かっても、手の打ちようがないな……」
「あ。そーだポルナレフさん。さっきかくまった女の子は、どこに行ったんだ？」
ミスタに指摘され、ポルナレフもようやく思い出したようだった。
「？ おかしいな……さっきまでベッドに寝ていたと思ったんだが……」
部屋を見回す２人。少女の姿はどこにもない。
と……ミスタとポルナレフは、背後に圧倒的な『存在感』を覚え、思わず振りかえった。
「な、なんだこりゃあ！？」
「一体いつの間にこんなものが……」
彼らの目の前には、巨大な白い円柱状の物体がどっしりとそびえ立っていた。
「塔」だった。高すぎて、部屋の天井を突き抜けてしまっており、頂上はかすんで見えない。
「まさかこいつが……『逆位置の塔』なのか？（そのまんまじゃねーか……）
じゃあよォ〜さっき、人質に取られていたトリッシュのニセモノが、『エリス』なのかッ！」
「どうやら、その可能性は高いようだな……」
「でも、あの女の子はトリッシュと同じか、それ以上に年上に見えたぜ？
さっき出会った『姉』たちは、どう見ても10歳かそこらの子供だった……」
「『幽霊』だとしたら、不思議じゃあない」とポルナレフ。「幽霊というやつは、死んだ時の姿から時間が
経っても変化しないんだ……エリスとやらが、もっと幼い時に『姉』たちを殺したというのなら、十分に
考えられるだろう」
「そ、そうか……でもよォ〜この『塔』、どこにも入り口がねーぜ？」
「『逆位置』というくらいだから、塔も上下がひっくり返っているのかもしれん」
「ンな安直な……」
「そして彼女の姿がない、という事は……」
「エリスも、この塔の中にいる、って事か……あんにゃろ、人質のフリしてその上『敵』だったとはな。
いっぺんお仕置きしてやらねーとよォ〜」
言いつつ、ミスタは「塔」に触れようとした。どうやらポルナレフの推測を信じ、頂上にあると思われる
入り口を目指して、よじのぼるつもりらしい。
ところが……
パキィィィン！
「痛ッつ…………！」
壁に触れた途端、激痛が走り……ミスタは慌てて手を引っ込めた。
「どうした！？」
「スゲー冷てえ……手が霜焼けになっちまったぜ」
ガチガチと身を震わせるミスタ。その手は軽い凍傷を起こしている。
それを見たポルナレフは、ゆっくりと塔に手を伸ばした。
「ポルナレフさん、アンタも火傷しちまう……」
「いや。おれは幽霊だ……熱さ、寒さは感じにくい……たぶんな」
スウ…………
ポルナレフの手は特に異変もなく、やすやすと壁面を撫でる事ができた。
「なんともねーのか、ポルナレフさん？」
「ああ……だが妙だ。この壁、軽く触れるだけなら固く感じるが……
強く押すと、吸い込まれてしまいそうな…………うわッ！」
ズブゥウウッ！
突如、ポルナレフの姿は「塔」の中へと吸い込まれた！
ミスタには、一瞬何が起こったのか理解できなかった。
「なッ…………ポルナレフさんッ！」
いくら大声で呼びかけても、部屋の中にはミスタ独りと、物言わぬ冷たい塔がそびえ立つのみだった。
ザッ…………
ちょうど、その時であった。
「亀」の潜む暗がりを睨み据える、長髪の男……「黒騎士」ブラフォードがやってきたのは。
18．叛逆のススメ 〜概論編〜
19．Awakening Knight
「悪魔」の呼びかけに、先刻まで彫刻であった「騎士」は目をまばたき、音もなく立ち上がった。
（あんな甲冑に身を包みながら、鎧がこすれる音ひとつしないなんて……ンなバカな）
ブルックの驚愕をよそに、逆位置の悪魔の男は騎士に質問した。
「わたしはアンドリュー・張……魂を輪廻から解放し、運命への叛逆を望みし者。
きみの名は？ 言えるかね？」
「……我が誇り高き名を尋ねる者は心せよ！」騎士は朗々たる声で大喝した。
「我が名は『黒騎士』ブラフォード！
77の輝輪（リング）の試練を乗り越え、メアリー様に忠誠を誓いしスチュアートの騎士なりッ！」
「素晴らしい」アンドリューは拍手した。「『黒騎士』に敬意を表し、今きみのいる時代、及び我が目的
を包み隠さず話そう。ここは……きみの生きていた時代より約400年後の未来だ。
そして我が目的は……きみに、わたしの望みを達するための手伝いをしてもらう事だ。
そのために蘇らせたのだからな」
「愚かな……勝手に我が魂を呼び寄せておいて……このおれがみすみす貴様に従うと思うのか！」
「黒騎士」の気迫に満ちた声にも、逆位置の悪魔の男はいささかもひるまない。
「さすがは『経験者』……今、己の置かれている状況を理解していながら、まるで動じていない。
威風堂々たる立ち居振舞いだ……ますます気に入ったよ。
だが、勘違いしないでほしい。わたしは……強要した覚えはない。
もしきみが、この世での復活を望んでいなかったとしたら、儀式は失敗に終わっていただろう。
きみにはまだ、この世で成しえていない、内に秘めた『願望』があるのではないかね？」
「内に秘めし……願望だと……」
「フフ、口に出さなくてもいい。『答え』はすでに、こちらで用意してある。
……ブルック」
アンドリューに命じられ、ブルックは別の部屋から一人の少女を連れてきた。
「さあ、こっちへおいで……大丈夫だから」
少女は、年の頃は20歳すぎ。だが17、18といっても通用するだろう。不自然なまでにオドオドしており、
上目遣いにアンドリューの顔を伺っている。
その側にいるブラフォードの姿を認め、ビクリと震えてブルックの背中に隠れてしまった。
「紹介しよう。彼女はエリス・真山……いや、今は母親の姓を名乗っていたね。
エリス・ロポーチェンという。
気を悪くしないでくれたまえ。彼女は過去に負った心のキズがもとで、自閉症ぎみでね。
気を許した人間でない限り、極端に脅えてしまうんだ」
ブラフォードの耳には、アンドリューの説明は届いていなかった。
心を奪われたかのように、じっとエリスの顔を凝視している。
（似ている……いや、まるで生き写しだ……メアリー様に）
そんな黒騎士の様子を見て、アンドリューはニヤリと笑った。
「えーとですね」ブルックが２人の間に割って入った。「あなた方にはこれから、別の仲間たちと一緒に
任務に当たってもらいたいんですが……時間的に余裕がないんで、のんびりと親睦を深めているヒマは
ありません……そこで、僕のスタンド能力を使いたいと思います」
ブルックの指先から、銀色の細い糸のようなものが出現した。
「これは我がスタンド『逆法皇』……もっとも今のブラフォードさんには見えないでしょうが……
僕の能力は『その人が望む記憶を抽出し、別の人へと伝える』事です。
記憶の『移植』とかも、やろうと思えばできますが……伝えたくない記憶は抽出できません。
あ、ご心配なく。僕の能力によって記憶喪失になる心配はありませんから」
言うが早いか、ブルックは「糸」で２人を素早く結びつけた！
キャギャギャギョオオオン……！
「…………！」「…………ッッ！！」
ブラフォードの心にエリスの「記憶」が！ そしてエリスの心にはブラフォードの「記憶」が！
すさまじい奔流となって、お互いを飲み込んだ。そして…………
「『理解』してくれたかね？
我が望みを成しうるため、我ら『叛逆の徒』となる覚悟があるのなら……
きみの『望み』をかなえるチャンスを提供しよう」
逆位置の悪魔の男の手には「矢」が握られていた。
この時、黒騎士ブラフォードは……己が仕えるべき、新たなる主君を見出したのだった。
20．時すでに遅すぎ
グロリアとマライアは、一本道の廊下で対峙した。
２人の放つ殺気と鋭い視線は、なんというか……とにかくドス黒かった。
「どーしたの……仕掛けてこないの？ あんだけ大口叩いといてさ」
挑発するグロリア。積極的な戦闘に向かない彼女のスタンドでは、相手の出方を伺うしかない。
「マライアって名前で思い出したんだけどさァ〜。
アンタ……アレね？ 『エジプト９栄神』のスタンド使いってヤツ。
『バステト女神』とか言ったっけ？」
「！」マライアの表情がかすかに歪んだ。
（ヒャッハァ〜狙いどおりッ！ ビビってやがるなァ人としてッ！）
無論、グロリアは「バステト女神」について、具体的な事は何も知らない。
ンドゥールが昔、ぽつりと名前だけ話していたのを聞いただけだ。
要するに、知ったかぶりをして相手を動揺させようという魂胆だった。
ハッタリ！
それはズル（賢くはない）い彼女のもっとも得意とする戦法ッ！
……まあ、他に選択肢がないだけ、という説もあるが……
魔女はさらに調子に乗って続けた。
「あたしに小細工は通用しないわよォ〜ヒャハッハ！
見せてみなさいよ……アンタのスタンドってヤツを。それともビビっちゃってる？」
マライアは一瞬、きょとんとしたが……すぐに口元を吊り上げた。
「……あんたさァ、本当にわたしの能力について知っているの？
気づいてないのかい？ あんたはスデに『バステト女神』の罠にハマってるんだよッ！」
「えッ！？」
マライアは素早く背を向け、脚のラインを強調しながら優雅に歩き去っていく。
「ウフフフフ…………」
「ちょっとアンタ、待ちな……」
パッコォ〜ン！
「ぶべッ！」
慌てて追おうとしたグロリアの脳天に、スパナが直撃した。
（痛たたた……さっきから何なんだ、クソッ！
おかしな電撃のせいでコケるわ、なんかカタイもんは飛んでくるわ……（どっから投げたんだ？）
まるで三下のコメディアン扱いじゃねーかッ……！）
振り向けば、いつの間にかメンテナンス用の工具箱が、ぽつんと転がっていた。
と、グロリアは後頭部をまさぐった。
タンコブができている……のは当然として、なぜかさっきのスパナがくっついている。
「…………？」
引き剥がそうとすると、吸いつくような抵抗があった。
手に取り、床へ向けて手を広げても……スパナは手の平にくっついたままだ。
「コレって……もしかして……」
グロリアは背筋に冷たいものを感じつつ、再び工具箱を見やった。
……動いている。ゆっくりと……いや、少しずつそのスピードは増している。
「あたし…………今『磁石』なの？」
彼女の達した結論を証明するかのように、箱の中のハンマーやドライバーが勢いよく飛び出した！
「ヒィイイイイイイエエエエエエーッ！？」
21．深追いは災いのもと
グロリアは全速力で走った。こんなに必死に身体を動かすのは何年ぶりだろう？
（じょーだんじゃないッ……『金属』が全部あたしに吸い寄せられてくるなんてッ！）
あのマライアを倒さない限り、この「磁力」は消えない。しかも、時間が経つにつれて次第に強くなって
いくようだ。
工具の群れが直撃する寸前、逃げる向きを変えはしたが、磁力のせいでしっかり軌道修正してきて、彼女
の肌を細かく痛めつけた。さらに……
ゴオッ！
今度は工具箱そのものが飛んできた！
「ギャアアアア『スティール・ユア・ハート』ッ！」
怪鳥のような絶叫を上げ、グロリアは咄嗟にスタンドを出した。
黒い大蛇が尾を使って、間一髪迫り来る箱を叩き落した。
「フー…………セーフ」
安堵するグロリア。彼女のスタンドも昔に比べると、少しは防御とかができるようだ（それでも、箱を
弾いた時はそれなりに痛かったが）。
懐に手を入れてみる。あの「彫像」を復活させるために、ブルックから多めに拝借した「宝玉」は儀式
終了の時点で残り５つ。しかし、そのうちの１つは「亀の置物」に使い、もう１つは部屋の照明を消すた
めに投げてしまっている。
（残った宝玉はあと３つか……とにかく、今はあの女を追うのと……
あの『美術品』がムダに飾られてた通路に行く事を考えないと……）
あの廊下には、「ライオン」や「熊」といった、屈強そうな彫刻があった。
中には「リス」とか「ネズミの群れ」、「人の手」など、何の芸術的価値があるのか理解不能なものも
多かったが……
そんな事を考えながら先に進むと、廊下の曲がり角から、薄笑みを湛えつつこちらを見ているマライア
の姿が見えた。
「ウフフフ……」
（あの年増女ァ〜ッ余裕ぶっこきやがって！）
自分の事は完全無欠に棚に上げ、グロリアはさらに追った。
マライアのいる曲がり角の向こうは……例の「彫像」のある廊下だ。
あそこまで辿り着きさえすれば、こっちから積極的に攻撃する事もできる。
グロリアはまだ気づいていなかった。「バステト女神」の能力には射程距離があり、本体であるマライア
からある程度離れてしまえば、磁力は失われ、呪縛から解かれる事に。
逃げる、だます、やりすごすといった事にかけては、人一倍能力を発揮する彼女であったが……
戦う、追いかけるなど、ことアクティブな面に関しては、悲しいほどにカンが悪かった。
22．ここぞという時に
「彫像」の並ぶ通路に着くと、マライアは20メートルほど離れた場所に立っていた。
「そろそろ……歩くのもおっくうになってきてるんじゃない？」マライアが妖しく微笑みつつ口を開く。
「わたしの『バステト女神』の磁力にはまったら、もう決して術をやぶる方法はない……
どんどん磁力は強くなる。あんたの身体をぐちゃぐちゃに押しつぶすまで、ね」
彼女の言う通り、グロリアの身体には、さっきの工具がまだしつこくつきまとっている。
「自信タップリじゃあないの、アンタ……」グロリアも負けじと睨み据える。
「あんた……この通路を目指してたんでしょ？ どうやるのかは知らないけど、彫像に命を吹き込む事が
できるそうじゃない」
「…………」
「でも、断言してもいいわ。あんたに反撃のチャンスは訪れない。
なぜなら……これからとっておきのダメ押しというやつを出すから。フフフフ」
マライアがスッと壁際に寄ると、それまで彼女の背後に隠れていた「あるモノ」が姿を露にした。
「！？」
「ウフフ、ゾッとした？ これは15世紀末ごろにつくられた騎士の甲冑……重さは60キロは下らないわ」
重量感あふれる甲冑はグラグラと震えている。グロリアの放つ磁力に反応しているのだ。
「コレがあなたに突っ込んでいくくらい磁力が強まると……
その速度、距離、重量を計算して……ビルの７階から飛び降りたくらいの衝撃かしらねえ？
運が良ければ、一瞬であの世に行けるけど……
当たり所が悪いと、中途半端に骨や内臓が砕けて、のたうち回るよーな苦痛が数分間は続くわよ」
このあたりの説明の仕方が、マライアの非情ぶりを物語っていた。
（マズイッ……あたしのスタンドじゃあ、甲冑なんかに『魂』を吹き込めないし……あんなに重たいモノ、
到底防げないッ…………！）
グワァッ！！
とうとう甲冑が、恐ろしいスピードでグロリアに迫ってきた！
「タァイム・オーバー……勝った……」
（死ぬの？ あたし……『スコリッピ』のヤツが、石と一緒に死んだから？）
グロリアは金縛りにあったように硬直してしまい、思わず目を閉じた……
ブゴォッッ！！
「なッ！」マライアの勝利を確信した笑みが凍りついた。
甲冑が一瞬にして炎に包まれ、炭化してしまったのだ！
「うへえ…………」グロリアは目を白黒させ、その場にぺたんと尻餅をついてしまう。
「ここぞ、という時に助けに来る……ヒーローの王道、ってやつだね」
飄々とした男の声。グロリアの目の前に、たくましい長身の若者が颯爽と立っていた。
彼の黒ずんだ指先から、細く煙が立ち昇っている。
「アンタは…………？」
「大友 流……ＳＰＷ財団の依頼で、あなたの身柄を確保するためにはせ参じた……
しがないフリールポライターさ」
流は皮肉げにニカッと笑ってみせた。
23．女難・大友流の場合
予想外のアクシデント発生！
普段のマライアであれば、即座にブチ切れて口汚く相手を罵るところであったが……今回は違った。
（２対１ッ……しかも片方は『炎』の使い手だってェ……？）
十年以上前の……敗北の記憶が脳裏をかすめる。彼女にとってそれは、いわゆるトラウマであった。
「…………くっ！」
小さくうめくと、マライアは踵を返し逃走した。
グロリアは我に返ると、さっきまで身体にくっついていたドライバーが床に落ちている事に気づいた。
（磁力が弱まってる……本体のマライアから離れれば、スタンド能力も届かなくなるみたいね……
とにかく、助かったァ〜）
「どうやら、間に合ったみたいですね」
流はグロリアを助け起こすべく、手をさしのべた。
「……助けてもらった事はお礼を言うわ。でもアンタ……『ＳＰＷ財団』の者だって？」
ちゃっかり起こしてもらいながらも、彼女の声にはトゲがあった。
「言っとくけど、あたしは今更『財団』のオモチャに戻る気はないわよ」
流は嘆息した。
（こっちだって……来たくて来たわけじゃあないのに……参ったなぁ。
聞いた話じゃあ、彼女は承太郎さんのはからいで、行動の制限以外は格別の待遇を受けてたって事
なのに……随分な言い草だこと）
とはいえ、目の前の彼女は今、確実に命を狙われている。仕事抜きにしても放ってはおけない。
たとえそれが、年増でハスっぱで敵意剥き出しのゲスな魔女だったとしても。
「まあ〜あなたが財団に戻る戻らないは、さておくとして……
どうするんだい？ オレの事が気に入らないっていうのなら、仕方ない。
ここでお別れ、って事になるね」
「待ってよ……」突き放され、グロリアはやや気色ばんだ。
「あのマライアってヤツがまた襲ってこないとも限らないじゃない？ １人よりは２人でいたほうが、
この屋敷から脱出できる可能性は高くなるわよ。あたしだって『スタンド使い』のはしくれなんだし」
むろん彼女は、流の「炎」の能力を当てこんで、それに「おんぶにだっこ」でラクに危険を突破しようと
いう腹積もりなのだが、おくびにも出さない。
いっぽう流も、冷たい素振りを見せたのは、彼女の不安を増大させ、自分について来るように仕向ける
ための方便であった。
細かい思惑はともかくとして、流とグロリアは、一時的にせよコンビを組む事になった。
マライアはやっとの思いで暗がりに身を潜め、一息ついた。
ブルルルルルッ！
突然、携帯のバイブレーターが鳴った。腰に身につけていたので、振動に思わず驚いてしまう。
「チッ、誰よ…………このクソヤバイ時に」
イライラしつつもマライアは携帯を黙らせ、手に取った。
＜あのー、マライアさん…………？＞
「……ブルックじゃない。何よ、今わたしは忙しいのよ」
＜えーとですね、首尾を聞いておこうと思いまして……グロリアさんは始末しましたか？＞
「うっさいわねェ。話が違うじゃない！ ＳＰＷ財団の助っ人が来るなんて聞いてないわよ！」
マライアが逃げた真の理由は、そんな些細な事ではないのだが……
とにかく今は、自分の失態を取り繕うべく、相手側の不備に難癖をつける事に夢中だった。
＜申し訳ありません。思いのほか、ＳＰＷ財団の情報網が優れていたようで……
こちらとしても計算外のトラブルでした＞
「『計算外でした』で済んだら公安警察なんて必要ないのよッ！
どう落とし前つけてくれるのッ」
＜もしかして、不満だから依頼を蹴るおつもりですか？ まあ僕は構いませんが……
あなたの信用問題に関わりますし、何よりあなたの『願望』を叶えるという約束を守るわけにはいかなく
なるんですが……それでもよろしいのですか？＞
「くっ…………」言葉に詰まるマライア。ブルックの言う通りだった。
（『アンドリュー』のヤツは……わたしを『若返らせて』くれると約束した……
ここで引き下がったら、また男日照りのみじめな毎日に逆戻りじゃねーかックソッ……！）
しかしマライアは、どうしても自分ひとりでグロリア達に立ち向かう覚悟が決まらなかった。
そこで、ブルックは付け加えた。
＜喜んでください。たった今、あなたを助けるべく『助っ人』が到着しました。
彼の能力にかかれば、その炎を使うスタンド使いとやらにも対処できるでしょう＞
「ほ、本当に……？」
＜ええ。これで２対２のイーブンになりますね。でも、そのためには……
マライアさん。あなたの能力がまだグロリアさんに及んでいる今しか、チャンスはありません。
僕がこれから言う通りに動いてください。いいですね……？＞
24．クールなホットガイ
流についていく形で、グロリアも後を追おうとした。ところが……
「んぎゃッ」
べタン！
何の前触れもなく、彼女は床に突っ伏してしまった。
「やれやれ、何やってんだ……ふざけてる場合じゃあ……」
流はたしなめたが、グロリアはそれどころではなかった。
全身から脂汗をにじませている事からも、必死に起き上がろうとしているのは分かる。だが彼女は、
急に１トンくらいの重りを背負わされたかのように、床から立ち上がる事ができなかった。
「まさか……『磁力』か？ マライアのヤツが、また……」
「……に、決まってンじゃないッ……！ 早く何とか、しなさいよッ……」
肺が圧迫され、呼吸も不自由になってきている。口を動かすのも難儀なようだ。
おそらくマライアは地下に移動し、グロリア達のいる通路の下に何か磁力に反応するものでも置いたのだろう。
このままでは、圧死する前に窒息してしまうのは目に見えている。
流は静かに……己の分身に呼びかけた。
「…………『アッシュ』、来い」
ズオォォォ……
白っぽい「灰」の塊が、砂でできた人形のような姿をかろうじて保っている。
そのビジョンは動くたびに形を変え、画質の粗いビデオカメラに写った不定形の怪物のようでもある。
これが大友流のスタンド……熱力学第二法則の終末形である「熱的死」の象徴、アッシュである。
アッシュは床に大きな円を描くように腕を振った。
「ちょっと熱いかもしれないが……ガマンしてくれ」
流はここに来るまでに、屋敷の構造をある程度調べていた。
素直に階段やエレベーターを使って地下に行く事もできるが、それでは間に合わない。
（となれば、打つ手はひとつだ……『力押し』、ってヤツだな）
流は大きく息を吸い込み、気合とともにスタンドエネルギーを爆発させた！
「ハウッ！」
ズドォォンッ！！
アッシュが放った「灰」が瞬間的に高熱化する！
グロリアの這いつくばっている床周辺は強引に溶かされ、結果……床は支えを失い、落下した！
「ぎにゃああああ死にたくないぃぃぃぃ！！」涙目で絶叫するグロリア。
流もすかさず崩落する床に跳び移った。
下を見やると、そこは巨大なプール場になっており、真下にはバレーボールほどの大きさの鉄塊……
おそらく特注の磁石なのだろう……を床に備え付けたマライアがいた。
「そーゆー物騒なモンは……『焼却処分』させてもらおうかッ！」
ゴッ！
磁石は一瞬にして炎上し、赤熱する溶鉄と化した。
マライアも最初から未練はなかったらしく、さっさと持ち場を離れて２人と距離を取っている。
流はグロリアを抱え、再びジャンプ！
バガァン！
落下した床が叩きつけられ砕ける。破片が飛び散ったが、流はアッシュで焼き、マライアは安全な場所に
避難していたので事なきを得た。
（フフ、来たなマヌケどもめッ！）無事着地した流たちを見て、マライアはニタリと笑った。
25．報復への序曲
「第２ラウンド、ってわけかい？」
流は横目で巨大プールを見やりつつマライアに言った。
（随分と深そうだな……）
流は少しだけ気が滅入った。火に水。単純極まりないが、それだけに有効な手段かもしれない。
「ここに誘い込めば……オレに勝てると？」
「ちょっと流ちゃん。せめて『オレたち』って言ってよ」
さっきから側にくっついて離れないグロリアの抗議は、この際無視した。
マライアも笑みを浮かべたまま口を開く。
「多分、勝てないね……わたしの『バステト女神』は、『炎』とあまり相性がよくないみたい。
たとえ今から、あなたを術中にハメたとしても、きっと間に合わないだろーし」
「あんたのスタンドについて情報は聞いてる……『コンセント』を使って磁力を帯びさせるそうだな？」
「フーン。やっぱりバレちゃってるのね」
「あんたに勝ち目はない……女性に手荒なマネはしたくないんでね。おとなしく引き下がってくれると、
ありがたいんだけれど」
「フン！ 誰がそんな事するもんかい！
わたしの『願望』をかなえるためにも、アンタ達には生贄になってもらうよッ！」
「あくまでも戦う気かい？」
「…………フフ。とはいえ、現状は２対１…………
わたしとしても『助っ人』が欲しいトコロよねェ〜……」
ボン！ ボバン！
突如、マライアの服の胸の部分が風船のように膨れ上がり、はちきれんばかりになった。
『！？』驚愕する流とグロリア。
「なに想像してんのさ！……あたしの胸がでっかくなったんじゃあないわよ……
その女の『磁力』がどんどん強力になってきてんのさ！」
そう、かつてジョセフ達と戦った時にも使った『おっぱいミサイル』だッ！！
ドヒャアアアアッ！
胸に仕込まれたボルトやナットが、２人に向かって雨のように飛来した！
「クッ『アッシュ』……守れッ！」
流のスタンドの炎が、金属の部品を次々と撃墜する。
だが、マライアの狙いはそこにあった。
「今だよ、テニール！ ヤツを引きずり込んじまいなッ！」
「！」
流は失策に気づいた。しかしまだ、マライアの攻撃を駆逐しきれていない！
プールの中から鱗に包まれた丸太のような腕が、流の足首に伸びていく。
（くッ…………オレはともかく、グロリアがッ…………！）
足を掴まれた。「腕」の動きは予想外に素早く、そして力強い！
迷っている暇はなかった。
「グロリアッ！」
流は「アッシュ」の腕から大量の「灰」を繰り出し、残った金属片を焼き尽くした。
燃え尽きた灰が鉄クズとともに床にバラまかれる。
ザブゥンッ！
コンマ数秒の出来事であった。グロリアが我に返った時には、流の姿はプールの底へと消えていた。
「……流……？」信じられない様子で呟くグロリア。
「アハハハハッ！ あんたの頼りにしてた『彼氏』は、もう助からない……」
マライアが勝ち誇って高笑いを上げた。
「火と水は相性が最悪……しかも水中戦でテニールに勝てるヤツなんていないんだよッ！
後はあたしの能力で、アンタをじっくりといたぶるだけ……
絶望ォォォォに身をよじりやがれェビチグソがァーッハハハハッ！！」
（ガーン！ また孤立無援に逆戻りィ！？ あたしって…………不幸ォォォォ〜ッ！！）
この期に及んでも……いや、こんな時だからか……自分の事しか考えの及ばないグロリアであった。
26．内なる世界 その１
27．黒騎士 その１
長髪の男は、小さな物陰に向かって声高に言い放った。
「そこに隠れているのは分かっている……来ぬのなら、こちらから行くぞッ！」
男が歩を進めると、暗がりから人影が出現した。ミスタだ。
「チッ…………また『新手』かよ」疲れきった声を上げ、銃口を相手に向ける。
「我が名は……黒騎士ブラフォード」
男が右手を掲げると、中空にスラッとした両刃の剣が出現し、彼の腰の鞘に収まった。
「しかもオレと同じスタンド使い……『デビル・リバース』とやら、いったい何人の刺客をオレたちに差し向けてやがんだ……？」
「殺す前に聞いておこう……『女』はどこだ？」
「女？」
「貴様がトリッシュと勘違いして助けた女だ。どこにいる？」
「さぁな……こっちが聞きてーくれーだぜ」
ミスタは茶化しつつ、銃のトリガーを引き絞った。
ガァン！
ブラフォードは動かない。その場に立ち尽くしたままだ。
（なんだ？ なんで避けねえ……？ こいつの能力はいったい……）
ブラフォードは指一本動かさなかった。しかし……
ヒュッ！
風を切る音とともに、鞘から剣が引き抜かれた！
「なッ…………！？」
剣を抜いたのは……意外！ それは髪の毛ッ！
ギィンッ！
ミスタの銃弾はあさっての方向にあっさりと弾かれる。恐るべき反応速度！
「死髪舞剣（ダンス・マカブヘアー）！……貴様のその『飛び道具』も……
我が剣技の前には無力よッ！」
（……どこのマヌケだ？ 『銃は剣よりも強し』なんて大ボラ吹いたヤツはよォ〜……）
脇腹のキズが痛む。今度こそダメかもな……ミスタは眼前に、死神の姿がよぎった気がした。
28．内なる世界 その２
そこは真っ白な世界だった。丸い部屋で、床も壁も天井も……すべてが白い。
そして、ひどく寒い。
「幽霊でも……『寒い』って感じるんだな……」
ポルナレフは肌を撫でる冷気に身震いした。生身の人間であれば、一瞬で凍死しかねないほどの身を切る寒さだ。
「ここは……あの『塔』の中か？」
自問が自然と口から出てしまう。自分以外誰ひとりとしていない、この部屋。
いや……それは違った。
「ハッ！」
ポルナレフが振り向くと、そこには５、６歳くらいの小さな女の子がうずくまって泣いていた。
「きみは…………？」
「パパ？」女の子は立ち上がってポルナレフを見た。
「かえってきてくれたのね。エリスのために……ずっと、ひとりぼっちで……さみしかったの」
女の子は涙に濡れた顔をほころばせながら、ポルナレフにすがりついた。
「悪いが……オレはきみのパパじゃあない」ポルナレフは静かに言った。
「いいの。そんなことどうでも……あたしを……だきしめて。おねがい……」
「きみが……エリスだね？ オレたちが見た『エリス』は、もっと年上の少女だった。
本当の姿じゃないんだろう？」
女の子の動きが止まった。今度は別の場所から声が聞こえてくる。
＜いえ……この女の子も、わたしの真実。『外』なる世界のわたし……
外にいる『わたし』は、記憶も知識も、精神すらも……この『象牙の塔』（アイボリー・タワー）の中に閉じ込めてしまったの……＞
シュウウウウッ……
女の子の姿は、テレビの画像のようにブレて形を失い……20歳ほどの女性の姿になった。
「外の世界」で見たエリスよりも、幾分理知的で大人びて見える。
「わたしは……エリス・ロポーチェン。『逆位置の塔』のカードの暗示を持つスタンド使い……
わたし以外の命ある者は、この塔に触れる事すらかなわないのに……あなたはいったい……？」
「あいにく……オレの肉体はとうに死んでる。今は『幽霊』なんでね」
幽霊とは思えないほど、ポルナレフは活き活きとした笑顔を見せた。
29．Ivory Tower
「『象牙の塔』とは……また随分なネーミング・センスだな」
一般に象牙の塔とは、現実社会から遊離した学問・思想・芸術または夢想の世界という意味がある。
しかしここは、夢想などとはほど遠い、空虚で凍えた世界だった。
「じゃあ、きみがあの……ミスタの言っていた『姉』たちの本体、って事なのか。
見たところきみは……この戦いを望んでやっているワケじゃあないんだろう？
もし戦う気があるなら、オレをここに引きずり込んだ時点で殺せたはずだ。違うかい？」
「…………」エリスは答えない。物憂げな表情のままだ。
「頼む。今、オレやミスタ、承太郎は危機に晒されている。
せめてきみのスタンドだけでも……解除してもらえないだろうか？
仲間になってほしい、とは言わない。戦いが終わるまで、この『亀』の中でじっとしていてくれさえすればいいんだ」
「……駄目なんです」
「え？」
「わたしの『姉』たちは、確かにわたしのスタンドです……でも、姉たちはわたしを恨んでいる。
わたしが……この手で殺してしまったからッ！
だからわたしには、姉たちの『恨み』を抑えこむだけの力がない……姉たちは『逆位置の悪魔』の命令に従って、暴走を繰り返す。
わたしに成すすべはありません……」
悲しげにくずおれるエリス。
（やはり、ミスタが言っていた事は本当だったのか……）
ポルナレフの頭の中で、ふと閃くものがった。
「そういえばエリス……きみの姉さんたちの名前を聞いていないんだが……」
「……それが、思い出せないんです」
「思い出せない？」奇妙な話だ。ポルナレフは首をかしげた。
「わたしは幼い頃……姉たちと母を殺めてしまった。
その時のショックで、スタンドが目覚め……当時の詳しい記憶は、すべて塔の中の……あの『扉』の内に閉じ込めてしまったんです」
エリスが指をさした先には、白い壁に埋め込まれたかのような重厚な鉄扉があった。
「だからなぜ、わたしが姉や母を殺したのか……母や姉が何という名前だったのか……
すべてをあの中に置き去りにしてきてしまい、思い出せなくなってしまっているんです。
ときどき、扉を開いてみようと思った時もあったけれど……
あの扉に近づこうとするだけで……忌まわしい悪霊が中で眠っているような感じがして……
恐ろしくて……うぅうう……」
ガタガタと震え嗚咽する彼女を、ポルナレフは勇気づけるべく口を開いた。
「エリス。きみのスタンド能力……『幽霊を塔に閉じ込める』事ができるのか？」
「ええ……『逆位置の悪魔』はそう言っていた……でも、姉たちは……」
「いや。多分……きみの姉さんたちが自由に行動しているのは、恨みとかそんな理由じゃあないと……オレは思うよ」
「えっ…………？」
「きみ自身、言っていただろう？ 『姉たちの名前を思い出せない』って。
『名前』ってヤツは、単なる記号や符丁なんかじゃあない。力を宿している。特に人の名は……
昔やっていたオカルトの特番からの受け売りだが……『悪魔を支配するためには、その真の名を知る』事が第一の条件なんだそうだ」
「確かに……姉たちの名前が分かれば、わたしでも抑えこめるかもしれない……
で、でもわたしには……あの『扉』を開ける勇気なんて……」
「いいかいエリス。あの扉を開ける、開けないはきみが決める事だ。何せきみ自身の記憶だからな。
でもこれだけは言っておく。はじめから駄目だと思って諦めたとき……可能性はゼロになるんだ。
たとえ成功する確率が１％でも、99％でも……やらなければ、何も始まりはしない」
「…………」エリスは考え込むように沈黙した。
「そしてオレも、承太郎やミスタを助けるために……できる限りの事をしたい。
そのためにはエリス。きみの協力が是非とも必要なんだ」
「わたしの……？」
「そう。きみのスタンドは『幽霊を塔に閉じ込め、その幽霊に肉体を与えて使役する』能力を持つ……
きみの能力で、オレにも『肉体』を与えてほしいんだ」
ポルナレフの驚くべき頼みに、エリスは慌てて首を振った。
「そ、そんなのムチャです！ 『逆位置の悪魔』は言っていた……
わたしの能力では、塔に繋ぎとめておける魂はせいぜい１人、２人だって。
姉たちの魂だけで、わたしの精神力は限界なんです……」
「そうとは限らないさ」ポルナレフは自信たっぷりに否定した。
「それに……『魂の繋ぎとめ』は危険なの。もし失敗したら……支えを失ったあなたの魂は、二度とこの世界に戻ってこれなくなるかもしれない……」
「言ったろう？ 諦めた時点で可能性はゼロだって。
スタンドは『できて当然』と思い込んでこそ、その真価を発揮するんだ。
それに、今のまま何もしなければ……オレはずっと、ここでくすぶってなきゃならん。
仲間を救えず、一生……死んでるのに一生ってのも変だが……後悔するハメになるだろうな」
「それほどまでに……大切なの？ 仲間が」
「ああ。命……いや、魂を賭して守る理由がある」
エリスは心の中で呟いた。（うらやましいな……）
「分かった。やってみるわ……教えてくれる？ あなたの名前を……」
30．復ッ活ッ！
ブラフォードは剣を構えつつ、ミスタとの間合いをじりじりと詰める。
「つまらんな……貴様は。脇腹のキズのせいで、すでに満身創痍なのだろう？」
「へッ……そーかもな……」
「強がってもムダだ。このブラフォード……相手の力量を読めぬほど愚かではない！
……どうだ？ 女を……『エリス』をおとなしく俺に引き渡すなら、この場を見逃してやってもいい……」
思いもよらぬ提案だった。ミスタは憮然となって尋ねた。
「エリスとあんたは……どーゆー関係なんだ？ コレか？」
小指を立てるミスタ。ブラフォードは表情ひとつ変えない。
「貴様には関係のない事だ。俺の要求を断るなら、貴様はここで死ぬしかない……」
突如、彼の言葉は中断された。
「あ〜、いっけないんだぁ。ブラフォードォ〜♪」
「デビル・リバースへの裏切り行為は、万死に値するんだよねェ〜！」
聞き覚えのある少女たちの声。ミスタとブラフォードが声のする方を向くと、エリスの姉たちが邪悪な笑みを浮かべていた。
「エリスを危険な目に合わせたくないから、愛の逃避行ってワケ？ いいなあ〜」
「あたし達も、一度でいーからそのくらい想われてみたぁ〜い♪」
「貴様らッ……！」ブラフォードは２人をねめつけた。
「コワ〜イ……そんな目であたし達をニラまないでよね。デビル・リバースにチクっちゃうぞ」
「でも、エリスが処罰されちゃうとあたし達も大変なのよねェ〜。
ブラフォード。任務を達成すれば、あんたもエリスも晴れて『自由の身』なんだからさ〜。
ヘンな気は起こさないほうがいーわよ。キャハハハッ！」
「くっ……命令どおりにすれば……いいんだな」
ブラフォードは不承不承といった様子でうめいた。
「分かればいーわよ……ところでさ、あのお兄ちゃんはあたし達のエモノなんだ♪」
「トドメ刺すの、あたし達に譲ってくれないかな〜？」
「フン……好きにするがいい」
ブラフォードの自棄になった返答に、姉妹の瞳が輝いた。
「とゆーワケで、お兄ちゃんッ！」
「これもデビル・リバースのためなの！ 悪く思わないでねーッ！」
襲い来る２人を見て、ミスタは小さく毒づいた。
「そー言われてよォー……悪く思わないヤツなんていねーっての……」
死を覚悟しつつ拳銃を構え、狙い撃とうとしたまさにその時。
ヒュンヒュンヒュン……！
不意にミスタの耳に、小さく風を切る音が聞こえてきた。そして次の瞬間……！
ボゴゴゴォンッ！
凄まじい轟音とともに……姉妹のひとりの身体が、ズタズタに切り裂かれてフッ飛んだ！
『なッ…………！！』
エリスの姉、ブラフォード、そしてミスタですら……驚愕すべき事態であった。
「あッ……あんたはッ！」
ヒュンヒュンヒュンヒュンッ！
そこに現れたのは……
「我が名はＪ・Ｐ・ポルナレフ……！
我が友ミスタの窮地を救うために……憂える少女エリスの魂の安らぎのために！
我は再び剣を取りて……我が敵を打ち砕かんッ！」
銀色の騎士のスタンドを従えた、凛々しき青年の姿のポルナレフだった！