約半年ぶりに、父親が帰ってきた。
「フラワーショップ・ミズタニ」も、ようやく本腰を入れて再稼動といったところ。
しかし、水谷春香は嘆息していた。
（…………やっと『春香』って、名前で呼んでくれたけど…………
あたしじゃあとても勝てないな…………青葉さんには）
自分は……どちらかと言えば内気で、やたらと花に詳しいだけのオタク女。
片や青葉のほうは……誰とでも気軽に打ち解けられる、スポーツ万能美少女ときたもんだ。
正面から立ち向かうだけの勇気も資質もない。それが分かっていただけに、春香の落胆はかなりのものであった。
と、そこへ父・喜一郎がやってきた。
「おーい春香……『金庫』の中に入っていた『通帳』の事なんだが……」
その言葉を聞いた途端、今までの物思いはどこへやら、春香の頭は一瞬にして白紙状態になった。
「つ、通帳が……どうかしたの？」
「それがなァ〜……金庫が無理矢理壊されてて……なくなっていたんだよ。
もしかするとカメオの奴が……捕まる前のドサクサに紛れて盗んだのかもしれん」
「そ、そう…………」春香はいくらか平静を取り戻した様子で、相槌を打った。
「ど〜するかだな……まだけっこーな金額が残っていたんだが……」
「なくなったものは、しょーがないじゃない。それに、億泰くんたちから聞いたけど……あのお金、不正に手に入れたモノだったんでしょ？ あんなモノ、いっそないほうがいいわよ。きっと」
「そうかなぁ……そうかもな。春香がそう言うんなら……」
喜一郎の言葉に、春香はホッと胸を撫でおろした。
「なあ春香。あの『花畑』の事件で、色々考えたんだが……
やっぱりわたしは、母さんが死んでからも……過去を引きずっていたんだと思う。
あの『花畑』は……そんなわたしに対する、母さんからの贈り物だったんだ。
『いつまでも自分に構ってないで、先の事を考えなさい』って教えてくれるための、な」
「…………」
「もう迷ったりはしない。ふんぎりがついた！ 母さんの事を忘れるわけじゃあないが……
今のわたしには……春香。お前が一番大切だ」
「お父さん…………」
喜一郎の瞳に新しい光が宿ったように、春香は感じた。
「これを機会に、一からやり直すつもりで！ お父さん、バリバリ働くぞ！」
「うん……ありがとう。あたしももっとしっかり、お父さんのお手伝い、するね！」
「手伝いばっかりじゃあなく、勉強もちゃんとやれよ……ハハハハ」
一方、カメオは……留置所の中だった。
（いいいい……痛ッデェェェェ…………あンのヤロー……手加減なしで蹴りやがってッ！
だがッ……あの時、偶然店ン中の『金庫』を発見できてラッキーだった……）
カメオは中に入っていた実印と通帳を抜き取り（ご丁寧にも暗証番号をメモした紙切れまで入っていた）「ジャッジメント」を使って別の場所に隠しておいた。
後は頃合を見計らって、ここを抜け出し……取りに行けばいい。なるべく急ぐ必要があるが。
（まだ、おれの動きは『承太郎』どもには勘付かれてはいないハズ……いやもし、すでに耳に入っていたとしても……おれはもーこの町で騒ぎを起こす気はねえ。カネさえ握っちまえばトンズラだッ！
これぞ『執念の勝利』ってヤツよォーックハハハ…………痛テテテ…………）
カメオの場合、執念を捧げる方向にかなり問題がある気もする。
水谷春香は、幸運を噛み締めていた。
（よかったァ〜〜〜〜通帳見つからなくて。
この半年……学費や興信所、探偵に支払う報酬とかで……使い込んじゃったからなぁ……）
さすがにまた借金ができた、という程ではないが……もはや残額は雀の涙くらいであった。
あの数字の光景は、思い出すだに春香の心胆を寒からしめるものだった。
水谷喜一郎。その正体は何の事はない。単なる親バカであった。
水谷春香。世間知らずなわりには、したたかな一面も見せる内気な少女であった。
そしてカメオは……死ぬよーな思いをしてまで見せた執念が、徒労に終わった事を知った……ある意味、今回の事件の最大の被害者であった。
この対戦小説はたくたくさんとＲさんの対戦ソースをもとにＬ氏ーどが構成しています。
解釈ミスなどあるかもしれませんがご容赦ください。
たくたくさんとＲさん及びカメオ、億泰にありがとう！