Story Tellers from the Coming Generation!
Interactive fighting novel JOJO-CON
「叛逆者たちの狂宴」 第二幕
求道者の妄執 ＃06
東方仗助 VS ユード・イオ
１．主役と脇役
東方仗助は憤っていた。何から何まで気に入らない。
ユカリとかいう女のスタンド使いによって、むざむざとこのピラミッドに連れて来られた事がまずひとつ。
（こいつらの用意した舞台で、踊らされちまうっつーのはよォ〜、かなりトサカに来るよなぁー……）
そして「逆位置の世界」。彼のこちらを小馬鹿にしたような口調も気に食わない。これが２つめ。
最後に３つめ。これが仗助にとって、最大の理由だった。
（あのヤロー……このオレを『脇役』（エキストラ）なんて呼びやがった……この仗助さんをよォ〜……
こーなったら腕ずくで、このオレこそが『主役』だっつー事を認めさせてやるぜッ！）
仗助は一瞬だけ、すでに電源の消えたパソコンを睨みつけ……すぐに眼前の異様な生物に向き直った。
ユード・イオ。水晶ドクロの頭を持つ「闇の一族」。
しなやかな獣のように四つん這いのまま、ゆっくりと透き通った頭部をこちらに向ける。
UUUUUUUUUU…………
ユード・イオの口から、狼の遠吠えのような唸り声が響いた。
仗助はふと、脇腹に奇妙な感覚をおぼえ……チラリと見やった。
「…………！？」
仗助は目をみはった。先刻、ユード・イオの手刀で切り裂かれた服が……透き通って固まっている。
「な……こいつは、まさか『水晶』……！」
さらに見やれば、ヤツの手によって砕け散ったピラミッドの扉や、穿たれた床もまた、水晶と化して色を失っている。
（こいつ……ユード・イオだっけか……触れたモノを『水晶』に変化させやがるのかッ！）
２．死闘・クリスタル・カット・クリスタル
ドゴォ！
ユード・イオはうずくまったまま、無造作にピラミッドの床に拳を繰り出した。
「……………………？」仗助は訝った。拳を床に叩きつけたまま、微動だにしないユード・イオ。
だが変化は起こっていた。ユード・イオの拳が触れた床から、直線状に透明な亀裂が出現する！
ビシビシビキビキ…………！
仗助は一瞬、状況を把握する事ができなかった。
亀裂がピラミッドの床の端まで到達した時、ようやく気づいた。
（野郎ォ〜……『水晶化』の能力で床の一部分だけ水晶にしやがったのか……って事はッヤベエ！）
ギャン！
予想外だった。いや、正確には予想していたよりも悪い。
ユード・イオが腕をひと振りすると、端まで届いていた「水晶」が軽々と持ち上がった。
恐ろしいまでのスピードのため、仗助は「光」が飛びかかってきたように錯覚した。
「かわせねえッ…………『クレイジー・ダイヤモンド』ッ！」
仗助は「水晶の刃」を叩き折ろうと、スタンドの拳を打ち込んだ。
バキィィィンッ！
「うぐッ…………おああああああ」
仗助はうめいた。「刃」は叩き折る事ができたが……クレイジー・ダイヤモンドの拳もただでは済まなかった。
鋭すぎる刃とまともにぶつかり、仗助の右腕からも鮮血がほとばしる。
だが、それで終わりではなかった。
スパァ！
仗助が叩き折った切っ先が、勢い余ってピラミッドの一部に食い込んだ……いや「通り抜けた」といった方が正確か。
ズズ、ズズズズズ…………！
「水晶の刃」に切り取られたピラミッドの石が……切断面からずり落ち、仗助に向かって落下してきた！
「くッ……………………！？」
跳び退ろうとする仗助。しかし……
「UUUUUUUUDOOOOOOHHHHHH……！」
「！」
いつの間に移動していたのか……ユード・イオ自身が仗助の背後に迫っている！
「グレート…………っていうか冗談だろチクショオッ！」（なんてスピードだ……オレが瓦礫に気を取られてるスキに……！）
３．治療不可能
ユード・イオと瓦礫の挟撃！ 仗助は迷わず、クレイジー・ダイヤモンドで瓦礫に一撃をお見舞いした。
「ドララララァーッ！！」
殴った瓦礫は、自然法則に逆らい、突如として軌道を変えた！
仗助のスタンドの「なおす」能力によって、切断させる前の状態に戻ろうとしているのである。
「なめてんじゃあねーぞッ！ この仗助さんをよォーッ！！」
仗助の身体を包み込むように両腕を繰り出してきたユード・イオの胸板に、クレイジー・ダイヤモンドは鋭く蹴りを入れた。
ドグシャア！！
仗助の蹴りが一瞬早かった。ユード・イオは大きく体勢を崩し、左腕がかろうじて仗助の足先に触れた程度だった。
そのままピラミッドの壁面に叩きつけられる。
（ヘッ…………やったぜ！ 今の動きを見て判ったが……こいつに『スタンド』は見えてねえッ！
あれだけの動きができるってのに、オレのクレイジー・ダイヤモンドが繰り出したパンチや蹴りには無頓着だった……
『闇の一族』だか何だか知らねーけどよォー……これなら勝てるぜッ！）
仗助がそう確信したのは、クレイジー・ダイヤモンドに「物を治す」能力がある、という事もあった。
本体自身には効果が及ばない。ゆえに、自分が負った怪我が治せないというネックはあるが……
自分以外の「物質」であれば、先刻のピラミッドの瓦礫のように、元通りにする事ができる。
見れば、たった今怪人に触れられた仗助のクツも、半分がた「水晶化」していた。
２万５千円もしたお気に入りの「ブランド」だ。これもスグに元通りになおせる……
ドギュン！ クレイジー・ダイヤモンドが仗助のクツに触れた。
「！？」
仗助の余裕の表情が翳った。クツは、相変わらず水晶化したままだ。元通りになる気配がない。
それどころか、クツは僅かずつではあるが、残りの部分にまで水晶が「侵食」しつつある。
直せない！
（……ンなバカなッ！……くそッ、ショックを受けてる場合じゃあねえぜッ！）
仗助の決断は早かった。咄嗟にクツを脱ぎ捨て、地面に放った。
クツは完全に水晶化し、床に叩きつけられた衝撃でバラバラに砕け散った。
だが、事態はそれだけでは済まなかった。
壁面にへばりつく形となったユード・イオの両腕から、無数の「輝くヒビ」が壁面を疾走していく！
やがて…………仗助の立っているピラミッドは、音を立てて崩壊した！
ゴガッ！！
「うぐッ………………！」
さしもの仗助も判断が間に合わず、バランスを崩してピラミッドの奈落に吸い込まれていった。
４．無幻回廊
ガラガラガラガラ……
崩壊した天井を治しても間に合わない。破片に触れるくらいは可能だが、それと掴んで登ろうととするには落下しすぎていた。
仗助はどうにか足場を確保し、着地した。大した高さではなかったが、よじ登るには天井が遠すぎる。
（クソッ……つまんねー事になっちまったぜ……『また』落っこちるハメになるとはよォー）
落ちた先は、石造りの回廊だった。幅は10メートル×10メートルほどで、薄暗くジメジメしていたが……
異様なまでに「果てしなかった」。
（何だこりゃ……まるで『碁盤の目』じゃあねーか……）
闇に慣れた目で見渡すと、すぐに十字路。その先にも十字路。その先にも……
先がかすんでしまって見えない。「終点」がない。
（気色悪ィ……『幻覚』か？ こいつは……）
「幻覚なんかじゃあないよ……」
「！」
声のした方を振り返ると、先刻見た型と同じパソコンがあった。ディスプレイにはシルエット状の「逆位置の世界」の姿が映っている。
「これは『逆位置の魔術師』……テクノマンサーが生み出した空間だ。
『虚構』がベースになっているが……確実に『存在』している。現実にね」
「……聞いてもねー事をよォー、グダグダしゃべくってんじゃねーぞコラァ！」
「『聞きたそうな顔』してたんでね、つい……それに、僕はきみの敵だというのに、
ありがたくも情報提供してるんだぜ。感謝してもバチは当たらないんじゃないかな」
「ざけんな」
吐き捨てる仗助。だが「逆位置の世界」はペースをかけらも乱さずに続けてくる。
「もうひとつ聞きたそうだから、教えてあげるよ。
きみの大事な『バリーの靴』……『治せなかった』理由を」
さすがに、この言葉に仗助は反応した。叩いていた軽口も潮が引いたように止まる。
「逆位置の世界」は満足げに笑った。
「カンタンな理由さ……きみのスタンド『クレイジー・ダイヤモンド』で治せないものって何だい？」
答えはすぐに出る。まず、自分自身の肉体。本体にクレイジー・Ｄの能力は及ばない。
そしてもうひとつ。それは……『失われた生命』。
「……………………！ まさか」
「気づいたようだね……ユード・イオの『魔結晶（クリスタル・ドゥーム）の流法』は、ただ単に物質を水晶化しているワケじゃあないんだ。
『色を奪う』と同時に、その『生命も奪っている』……ゆえに一旦水晶化した物質は二度と戻らない」
刹那。
コツーン。
天井から降ってきた小さな物体が、仗助のすぐ側に落ちてきた。
ハッとして天井を見上げると……不気味な光景だった。
まるでトカゲのように、天井にへばりついている「しゃれこうべ」の怪人。
「てめェ――――ッユード・イオッ！！」
恐怖を撥ね退けるように仗助は吠えた。
ヤツは天井のわずか１センチにも満たない「くぼみ」に指を突っ込み……全体重を支えていた。
卓越したロック・クライマーは、指一本で全身を制御するパワーとテクニックを身に付けているというが……ユード・イオは天井に『平行』になったままブラ下がっている！
胸が悪くなるような体術もさる事ながら、恐るべき事態はさらに起こった。
ユード・イオは全身に『汗』をかいていた。身体中の水分が意志を持って飛び出そうとしているかのように。
そしてその汗は、見る間に小さな球形となり――
シュバァッ！！
ユード・イオが腕をふりかざすのと、仗助が飛び退くタイミングはほぼ同時だった。
仗助も尋常ではない、目覚ましいばかりの反射神経だったが、ユード・イオの汗の飛沫は、予想以上に飛び散る範囲が広い。
ドガカカカッ！！
水晶と化した汗が石畳を穿つ。仗助のズボンの端にも一個だけ引っかかった。
（チクショオォォ〜〜〜〜キタねーモン飛ばしてきやがってッ！ オレの３万円もしたズボンがッ……
本格的にヤベエ……こいつ、『液体』まで水晶化できるってのかッ…………！）
Ｔｏ Ｂｅ Ｃｏｎｔｉｎｕｅｄ ！！